イベントなどで目立つなら、大技がカギとなる。ただセダンが持つ高級感は崩したくない。ハデさを抑えたまま、周囲を驚かせたかった。だからやっている感をあえて出さずに、インフィニティM35(日本の先代フーガ)を51フーガ仕様に仕上げた。51系が余裕で買えるほどの費用を費やしたが、前人未到だからこそ挑戦する価値があった。
■やっていることは豪快だが、志はシンプル
今月号の表紙車は、マットブラックで塗られた51フーガ(現行モデルのY51型)。といったら、きっと誰もが信じて疑わないであろう。ということで最初に種明かしをしておくと、ベース車は50フーガ(先代)の北米モデル、インフィニティM35である。つまりは51フーガの顔面やテール周りを丸ごと移植しているのだ。
顔面移植といえば、昔はVIPセダンのドレスアップ界で多く見られた大技。例えば10型セルシオ(初代モデル)に20型後期(2代目モデル)の顔面を移植して新しく見せるクルマもあれば、まったく異なる車種のライトやグリルを流用して車種不明感で楽しませたクルマもあった。
これらは高い技術が必要なので、最近は気合いを入れて顔面移植したクルマは少ない。しかし前・中期のレクサスLSを後期仕様にするなど、一部の車種に限っては今も当時のワザが受け継がれている。
話をインフィニティに戻すが、細部の作りを見ると「いかにも移植しました」という雰囲気は微塵も感じられない。その秘密は、何といっても51系の純正部品の使用量が尋常ではないから。フロント&リヤ周りはもちろんだが、何とリヤクォーターパネルやドアまで51フーガ純正を移植している。やっていることは大胆だが、方向性としてはシンプル。だから違和感のない仕上がりを実現した。
「僕は昔からシンプル派。でもシンプル仕様で、見る人の度肝を抜かせるのは難しい。そこで思い付いたのが、フル51系仕様でした。ただシンプルにまとめたいから、あえてやっている感は出さない。『51系に乗り換えたんですか?』と思われるくらい、自然な作りを目指しました」。
全方位から見ても自然な51フーガ仕様
これぞ「やっているシンプル」の極み
外装を見ると本当に51フーガそのものだが、そもそも51系に心ときめかなければ、大枚をはたいて移植しようとは思わないはず。そこでオーナーに、51系の魅力を聞いた。
「50フーガも欧州車のような雰囲気が気に入って買ったクルマですが、51系はそれを大きく上回るほど洗練されていると思う。遠目では現行のマセラティにも見える、オシャレなスタイリングが好きなんです」。
純正パーツは独自のルートを駆使して中古の美品をかき集め、どうしても手に入らないものやキレイさが求められる部品は新品を取り寄せて挑んだ移植加工。まずフロント&リヤまわりは、51系純正のボンネットとトランクをそれぞれ寸分の狂いなく装着することからスタートした。
「ボンネットとトランクがピッタリ付けば、自ずとフェンダーやバンパーの位置が決まってくるので、チリ合わせにかなり気を使いました」。
フロントバンパーは力強いグリルが特徴の51系純正を流用し、さらにブレーンプレミアムスポーツの200マジェ用をニコイチ。リヤも51フーガ純正バンパーを移植し、ブレーンX10のリヤハーフをパテ埋めして一体化。51系の魅力を残したまま、重厚感を高めた。さらにサイドを走るしなやかなプレスラインも取り入れるために、フロントフェンダーとドア4枚、リアクォーターパネルも51系を加工して装着した。
「サイドが手付かずだと、手作り感が出て50系とバレてしまう。プレスラインをパテで作るのもイヤだったので、妥協せずに移植しました」。
「高級感を崩さずに、度肝を抜かせる仕様を作りたい」
内装はステータス性の高い左ハンドルという点だけで十分目立つが、トータルで見せられるクルマを目指して徹底的に張り替え。渋くまとめた外装とは違い、白×赤の2色で華やかにキメてギャップを付けた。汚れが目立つという理由で敬遠されがちな白をあえてメインに据え、清潔感を前面に押し出したのがウリ。
「暗めの色なら手入れも楽ですが、白は常にキレイにしておけば鮮度を長期間保てるのが強みだと思う」。
そして稀少なベース車をアピールするべく、シートやマットなどにインフィニのロゴを追加。ブランド力の高さで内装の格を一層上げた。
今回短期間で実践したフルリメイクは周囲からの反響も上々で、
「イベントが終わった後に、SNSで『51フーガ仕様とは気付きませんでした』という書き込みもあり、苦労して作った甲斐がありました」。
とは言え、急ピッチで製作したこともあり、今後は細部のチリを合わせて完成度を高めるのが目標だ。
「まだまだツメが甘い。80%の満足度を、100%にしたいですね」。
<レポート:VIP STYLE編集部>