レーシングではなくストリートにころあるR35の神髄
当然、スカイラインの名を外した現行のR35型GT-Rであっても、日産においてGT-Rを名乗る以上は、GTレボリューションとして世界最高性能を目指すという意気があったはずだ。それゆえ、ハコ型×4シーター×AWDが貫かれた。思い出すべきは、サーキットで鍛え上げられたとはいうものの、R35がレースの匂いをさせずに立ち上がった点にこそある。
ポルシェ・ターボやイタリアンスーパーカーに対して、言い訳(=チューン次第で同じ舞台に立てる)なしで勝負を挑み、そして勝つことを目指した。
ツルシで世界一級となったからこそ、R=レーシングの世界でもトップレベルに上り詰めたといえるが、R35の伝説は、もはやR=レーシングの舞台ではなく、完全にストリートに存在する。ごく一般的なGT-Rファンにとって、昔ほどレーシングの熱狂的な匂いは必要ない。ニュルのラップタイムが伝説となることはあっても、どこか何かのレースでの連勝記録を望む声など、もはやどこにもない。
そう理解して初めて、R35の7年間に及ぶ進化の歴史が、世界最高の「GT」を目指すことと、極限の性能をイメージさせる「R」であることとを、どうバランスさせるかのせめぎ合いであったことに気付く。
ヨーロッパ風スポーツカーの流儀を取り入れたMY14
R35GT-Rにおける節目のマイナーチェンジを各々思い出してほしい。直近のMY14ではニスモという「Rの究極」を提示できたがゆえ、基準モデルを思い切ってGT側に振れた。
しかし、同時にそれは、スカイラインという名を失った今のGT-Rにとって、個性の喪失を招く方角へのドライブであったかもしれなかった。
MY14に初めて乗ったとき、そのあまりの変貌ぶりにフルモデルチェンジ級のショックを受けたことを覚えている。
端的に言って、「ヨーロッパ風スポーツカーの流儀」になっていた。一新された開発陣にとってそれは褒め言葉であっただろうし、一方で、生粋のR35ファナティックの目には堕落と映ったことだろう。GT-RミズノからGT-Rタムラへ(R35の開発責任者が水野和敏氏から田村宏志氏に変わった)。そこに明確な変化を感じることは、誰にでもできたというわけだ。
あれから一年。振り出しに戻って始まった新開発チームによって提示されたMY15は、見た目の変わらなさとはウラハラに、ナカミを、特にそのドライブフィールを大きく変えてきた。否、変えたというよりも、進むべき方向を自ら見つけ出し、実行に移す時間があったと言ったほうが適切だろうか。
高速道路を2時間ばかり乗った印象を言えば、類い稀なグランドツーリングカーであるというMY14に顕著だったキャラクターは、しっかりと守られていた。
随分と雑味なくスッキリ回るようになったエンジンフィールや、スムーズかつパワフルな中間加速、ドライバーがしっかりとパワートレインを抱えて車体を動かしているという感覚は、MY14から引き継いだ、そして以前のGT-Rには希薄であった「GT的美点」と言うべきだろう。