GT-Rはレーシングかグランドツーリングか
2015年モデル(MY15)のR35GT-Rに試乗。MY14(2014年モデル)との違いは何か?
初代スカイラインGT-Rが目指したレーシング、レーシングからグランドツーリングへと消化した第2世代スカイラインGT-R。歴代モデル鑑み現行R35型GT-RMY15神髄を見極める。
思い返せばGT-Rの歴史は、「R=レーシング」と「GT=グランドツーリング」両方の高みを目指すがゆえの、振り子の歴史だったのかもしれない。
もっとも、原点=第1世代(PCG10型スカイラインGT-R)に立ち戻れば、ロードカーのパフォーマンスに必ずしもRらしい性能が現れていたわけではなかった。そこにあったのは、Rへの扉、もしくはRに至る痕跡のようなものだったのではないだろうか。
物理的な存在として、例えばS20型2リットル直列6気筒DOHC4バルブエンジンのように、R的な具象は存在したとはいうものの、「R」の正体といえば、実に観念的なものであった。
「グループAレースで勝つ」というという正に「R」を念頭にエンジン開発などが行われた第2世代(BNR32型スカイラインGT-R)においてもまた、ピュアな「R」に関してはやはり観念の範疇から抜け出せなかった。せいぜいそれは、グループAというカテゴリーの性質上、スタイリングが市販車とさほど変わらず、愛車と同じ形がサーキットで大活躍しているという実感程度のものだった。
純粋にパフォーマンスという観点からすれば、そこには、大きな断絶があったのだ。RB26DETT型2.6リットル直列6気筒DOHCターボエンジンは、600psに耐え得る仕様・基本設計であったとはいうものの、ツルシの市販車には半分以下のパワーしか与えられなかったのだから当然である。
GT-Rにおける「R」の意味合いが、より観念的に昇華し変質したのは、BNR32の後のBCNR33、そしてBNR34においてであった。もはや、ロードバージョンに「R」の香りはあっても、匂いはなかったからだ。それは、スカイラインの延本流は「ストリート」にありR35が進む革新のベクトル長線上にあって、あくまでも、GTの「レボリューション」であった。
レーシングではなくストリートにころあるR35の神髄
当然、スカイラインの名を外した現行のR35型GT-Rであっても、日産においてGT-Rを名乗る以上は、GTレボリューションとして世界最高性能を目指すという意気があったはずだ。それゆえ、ハコ型×4シーター×AWDが貫かれた。思い出すべきは、サーキットで鍛え上げられたとはいうものの、R35がレースの匂いをさせずに立ち上がった点にこそある。
ポルシェ・ターボやイタリアンスーパーカーに対して、言い訳(=チューン次第で同じ舞台に立てる)なしで勝負を挑み、そして勝つことを目指した。
ツルシで世界一級となったからこそ、R=レーシングの世界でもトップレベルに上り詰めたといえるが、R35の伝説は、もはやR=レーシングの舞台ではなく、完全にストリートに存在する。ごく一般的なGT-Rファンにとって、昔ほどレーシングの熱狂的な匂いは必要ない。ニュルのラップタイムが伝説となることはあっても、どこか何かのレースでの連勝記録を望む声など、もはやどこにもない。
そう理解して初めて、R35の7年間に及ぶ進化の歴史が、世界最高の「GT」を目指すことと、極限の性能をイメージさせる「R」であることとを、どうバランスさせるかのせめぎ合いであったことに気付く。
ヨーロッパ風スポーツカーの流儀を取り入れたMY14
R35GT-Rにおける節目のマイナーチェンジを各々思い出してほしい。直近のMY14ではニスモという「Rの究極」を提示できたがゆえ、基準モデルを思い切ってGT側に振れた。
しかし、同時にそれは、スカイラインという名を失った今のGT-Rにとって、個性の喪失を招く方角へのドライブであったかもしれなかった。
MY14に初めて乗ったとき、そのあまりの変貌ぶりにフルモデルチェンジ級のショックを受けたことを覚えている。
端的に言って、「ヨーロッパ風スポーツカーの流儀」になっていた。一新された開発陣にとってそれは褒め言葉であっただろうし、一方で、生粋のR35ファナティックの目には堕落と映ったことだろう。GT-RミズノからGT-Rタムラへ(R35の開発責任者が水野和敏氏から田村宏志氏に変わった)。そこに明確な変化を感じることは、誰にでもできたというわけだ。
あれから一年。振り出しに戻って始まった新開発チームによって提示されたMY15は、見た目の変わらなさとはウラハラに、ナカミを、特にそのドライブフィールを大きく変えてきた。否、変えたというよりも、進むべき方向を自ら見つけ出し、実行に移す時間があったと言ったほうが適切だろうか。
高速道路を2時間ばかり乗った印象を言えば、類い稀なグランドツーリングカーであるというMY14に顕著だったキャラクターは、しっかりと守られていた。
随分と雑味なくスッキリ回るようになったエンジンフィールや、スムーズかつパワフルな中間加速、ドライバーがしっかりとパワートレインを抱えて車体を動かしているという感覚は、MY14から引き継いだ、そして以前のGT-Rには希薄であった「GT的美点」と言うべきだろう。
ドライバーに反応を求めてくる2015年モデルR35
新名神高速の鈴鹿の山越えにおいて、雪に見舞われた。昨年、ちょうど同じ時期にここを通過中、大雪となり、アッと言う間に積もったことを思い出す。
そのときは電子制御がない時代のMRスーパーカーを駆っていたため、次第に路面を覆い始めた雪に恐怖心すら抱いたが、GT-Rなら安心だ。そう信頼できるだけの、重量バランスの良さと制御システムの優秀さが、GT-Rの根本を支えていると言っていい。
クルージング時に、妙な緊張を強いてこないという点も、MY14と同様に最新モデルの美点である。路面の変化に対するアシの順応力が高く、ステアリングホイールに至るまでに、不快なレスポンスを取り除いてくれる。
ただ、MY14の記憶と少し違うなと思ったのは、例えばジャンクションのようなコーナーの途中、少し路面が荒れたか何かで車体の動きに変化が生じた際、MY14ではそれをあやふやに、さも何事もなかったかのようにクリアさせてみせるだけの鷹揚さ、というか、いい加減さがあったはずなのだが、MY15では一瞬とはいえ、ドライバーに反応を要求するような律儀さがあった。
同じようなことは、車線変更を積極的に行うような場面でも感じた。フロントアクスルとの一体感が増している。ちょっとMY13のようで、GT-Rのフロントセクションがより低く、狭くなったような感覚をドライバーの両手に残すのだ。実際、ノーズの動き始めには、MY14にはなかった機敏さもある。かといって、例えばBMW・M3のようなFRカーのように、さらに動きたがるような性質はない。サッと動いてサッとやめる。そんな潔さがある。
よりドライバーズカーへと深化した2015年モデル
よりドライバーズカー寄りのGTへと「深化」したMY15。R寄りのワインディングでは、GT-RマガジンのスタッフカーであるR35(MY07ベースにMY13サス+MY14タイヤ仕様)と、ほとんど同じベクトルの仕立てになっていて驚いた。
ひと言で言って、ツウ好み。もはや、ワインディングステージにおける以前のMY14のように、どんなドライバーが乗っても速く走らせてくれそうな懐の深さはすっかり影を潜め、どちらかといえば、積極的で果敢なドライビング・アティテュードを促すキャラクターへと変貌を遂げていた。
そのことは、GT-Rマガジン号に乗り換えて同様のコースを走り、ほとんど同じ気分だったことでもわかる。否、正直を言うと、GT-Rマガジン号のガサついた=初期のR35 GT-Rらしいパワートレインフィールと、鋭くかつ粘り気があって地面と近しいステアリングフィールに「惚れて」しまったのだが、MY15はその動きに近い。
MY14で、GT-Rの方向性が「GT」と「R」の両方に広がっていることを、基準車とニスモであらためて見せつけたR35 GT-Rタムラ。MY15は、MY14で分けざるを得なかったGTとRの融合を、突き詰めて検討する時間があったということだろう。
また「次」への期待が高まった。
NISSAN GT-R主要諸元
車名型式 | ニッサンDBA-R35 |
全長×全幅×全高(mm) | 4670×1895×1370 |
ホイールベース(mm) | 2780 |
トレッド 前/後(mm) | 1590/1600(1600/1600 ※1) |
最低地上高(mm) | 110 |
車両重量(kg) | 1740(1750 ※2) |
最小回転半径(m) | 5.7 |
エンジン型式 | VR38DETT |
ボア×ストローク(mm) | 95.5×88.4 |
総排気量(cc) | 3799 |
圧縮比 | 9.0 |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 404[550]/6400 |
最大トルク( Nm[kg-m]/rpm) | 632[64.5]/3,200-5,800 |
燃料タンク容量(L) | 74 |
燃料消費率 JC08モード(km/L) | 8.7 |
※1はTrack edition engineered by nismoの数値
※2はPremium edition/Track edition engineered by nismoの数値
グレード | 価格(税込み) |
GT-R Pure edition | 947万7000円 |
GT-R Black edition | 1040万400円 |
GT-R Premium edition | 1058万7240円 |
GT-R Track edition engineered by nismo | 1170万720円 |
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