日産とブリヂストンが日本で初めて
新車用タイヤの開発を共同で行った!
日産R32スカイラインGT-R専用タイヤの開発において、日産とブリヂストンのパートナー関係がいかにイーブンで、それが当時としては前例のないことであったのかについて迫ってみたい。
ニュルブルクリンクは、GT–Rの車両開発において今日のR35GT-Rも同様に、切っても切れないフィールドとなっている。
渡邉は日産にとっての最初となったニュルブルクリンクテストを振り返る。
「ニュルでは、本当にブリヂストンさんに『おんぶに抱っこ』でしたね。ホテルやガレージなど紹介してもらい、大変ありがたく感謝しています。クルマの盗難防止の方法なんかも教わったりして(笑)」
「ポルシェ承認のタイヤ開発をしていたとき、ホテルの駐車場でテスト用の車両を盗まれたことがありまして」と、熊野は苦笑する。
「そういう苦い経験もおありだから、『テスト車両はほかのクルマで囲むようにして駐車すると盗まれない』と教わりました」と渡邉も懐かしむ。
その上で、ブリヂストンの二人から、日産との開発の独自性を振り返る言葉が返ってきた。
吉野は、「日産さんとの仕事では、弊社の社内よりタイヤに敬意を払っていただけました。自動車メーカーとサプライヤーといった上下の関係ではなく、横の関係で『良いものを作ろう!』という議論が心地よく、同じように物づくりに取り組む仲間という関係だったのです。例えば、加藤博義さん、川上慎吾さんといった方々から、『タイヤは、クルマそのもの』ということを言っていただきました」
熊野も、吉野と同様だったと語る。
「日産さんの一員といった位置付けにしてもらえました。エンジン、シャーシ、ブレーキといった日産の各担当の方と同じように、われわれも『GT–Rのタイヤ担当』だという位置付けです。ニュルへ行っても、パドックに一緒にいるし、開発の議論の中に自分も加わって、互いに言いたいことを言える。それは、かつて経験のなかったことでした」
また、タイヤメーカーの技術サービスとして、実験部のテストドライバーの評価を直接聞けるということも、初めてであったという。
「神の声」を聞いてタイヤを開発
「きっかけは、日産さんの901活動だったかもしれませんが、それまでは、実験部のタイヤ評価をシャーシ設計部から定量的な数値で報告を受け、例えば『コーナリングパワーを15%上げてくれ』みたいな話を伺って、それを弊社のタイヤ設計に伝え、試作タイヤを作り、再び日産さんで評価してもらう流れでした。
しかも、試作タイヤをまず社内で確認する際には、弊社のテストコースで、現行のクルマを使って評価するので、そもそも開発中の新車に適合するわけがありません」
「それで、改良どころか改悪みたいなことも起き、シャーシ設計のご了解を得たうえで、実験部に直接お話を伺いに行かせていただくお願いをしたのです。当然ながら、実験の方と直接話をさせていただくことで、開発の効率は飛躍的にあがりました」と熊野。
「今ではほとんどの新車用タイヤ開発が自動車メーカーとの共同開発になっていますが、それができたのは日産さんが最初でした」と、吉野は言う。
ニュルブルクリンク近くにある開発基地で撮影されたスナップショット。一番右が吉野氏である。当時、R34の商品企画主担を務めていた田村宏志氏(現R35GT-R・CPS右手前2番目)や加藤博義氏の姿もある
「ただ、GT–Rのタイヤ開発となると官能評価が重要性を増し、テストドライバーの方の哲学的な表現の言葉を、どのようにタイヤ技術や諸元に落とし込んで設計者に伝えるか、そこが難しかったですね」と熊野が続けると、「いわゆる『神の言葉』というやつですね? 加藤博義さんの秋田弁も難解だったかもしれませんね(笑)」と、渡邉は微笑む。
「ニュルを加藤さんが走って、スタート直後に『何これ?』とダメ出しされたことが何度もありました」とは、吉野の思い出である。
ほかにも、開発で思い出すのは、「いろいろな場所へ一緒に連れて行ってもらえたことですね」と、吉野はうれしそうに語る。
「通常は、ブリヂストンの栃木のテストコース内で開発を進めるのですが、GT–Rの場合は、筑波サーキットをはじめ、鈴鹿サーキット、九州のオートポリスや、仙台ハイランド、そして陸別にある日産さんのテストコースへも頻繁に同行させてもらいました」
熊野は「陸別のテストコースができたのはR32GT–Rの開発がきっかけと耳にしましたが、ニュルブルクリンクにあるようなジャンピングスポットもあるんですね」と、感嘆する。
「共同開発ということで、わたしは日産さんのテストコース内を運転するための資格をタイヤメーカーとしては最初に取得させていただきました」とは、吉野である。
日産とブリヂストンがこうして強固な人間の絆を結んだからこそGT–Rが生まれたことが、今回解き明かされた。(文中敬称略)
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