ホワイトボディ段階でオーバーフェンダー化
妥協を廃し本物を作るために手作業で行われた
スバル『インプレッサ22B STiバージョン』の商品企画は、1997年当時STI(スバルテクニカインターナショナル)の社長を務めていた故・久世隆一郎さんによる「ファン感謝の意味も込めて、WRC(ワールドラリーチャンピオンシップ)に参戦するWRカーのレプリカをスバリストに届けたい」という強い思いから実現した。
400台のリミテッドモデルとして『インプレッサ22B STiバージョン』が発売されたのは、1998年3月。
WRCマニュファクチャラーズ部門の3年連続チャンピオンを記念し、当時のWRC参戦マシンである『インプレッサWRC97(下の写真)』のロードバージョンとして誕生した。
『インプレッサ22B STiバージョン』は、2ドアボディを採用する『インプレッサWRXタイプR STiバージョン』をベースに鋼板プレス製のブリスターフェンダーを前後に装着。
もちろん手作業によって行われる架装車で、リヤのフェンダーにいたっては、ホワイトボディのリヤクォーターパネルを一度切断してからブリスターフェンダーのパネルを溶接するという、平成になってからの日本の自動車メーカーではありえない手の込んだ工程を要することでも話題となった。
オーバーフェンダーについては樹脂製のパーツをポン付けする案もあったようだが、「スバルを世界一のブランドに育てる」を公言していた久世隆一郎さんをはじめとする当時の首脳陣は、妥協廃して可能な限り本物のWRCマシン作りに近い製法での生産にこだわった。
特別装備と2.2リットルにボアアップしたエンジン
500万円の販売価格と生産原価はほぼ同じと儲けナシ
1990年代後半の頃のインプレッサWRXといえば、馬力などの派手なスペックありき、速さありきの古典的で硬派なクルマだった。しかし、久世さん(下の写真)はそれだけではなく、栄光のWRカーのイメージを付加価値とすることでプレミアム性を加えた。
ボディワーク以外では、エンジンにも尋常ならざる特別感があふれている。オーバーフェンダー装着にともなうワイドボディ&ワイドトレッド化により、普通のGC8系インプレッサでは履けなかった235幅のタイヤ『ピレリPゼロ』を装着。
シャーシ性能に余裕を持たせたうえでエンジンをボアアップし、排気量を2.2リットルに拡大。
最高出力は当時の自主規制である280psのままながら、最大トルクはGC8系インプレッサ最強の37kg-mを達成。高回転型だった標準のEJ20型エンジンでは考えられない豊かな低速トルクを実現した。
エンジンのパフォーマンスアップに合わせ、クラッチはセラメタのツインプレートとするなど、駆動系の強化も抜かりなし。価格は紆余曲折の末に500万円に落ち着いたが、じつは原価も500万円ほどかかっており、ユーザーにとっては空前絶後のお買い得車になっていたのだ。
(レポート:マリオ高野)
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