初期型はミッションの金属キャップ装着が必須
アッシー価格は発表時より100万円安の150万円
20万kmまでの間、本誌所有のR35GT-Rは過去に2度トランスミッションの不具合を経験している。最初は走行8万7000km時。警告音&メッセージの点灯は今回のケースと同様で、偶数ギヤにシフトできなくなるトラブルであった。
当時は5年もしくは10万kmの新車特別保証適用期間内だったので、車両を購入した日産ディーラー(ハイパフォーマンスセンター)に入庫。すると、翌日に「直りました!」と一報が入った。
当初は「載せ換えも辞さない大きなトラブルなのでは?」と思っていたのだが、トランスミッション本体を降ろすことなく修理できたという。
原因は「ACM(アクチュエーターモジュール)」内のシフトピストンとシフトフォークかん合部に磨耗が発生し、シフトピストンが回転してしまったことで、正常なギヤ位置が検出できなくなったことによるものだった。
文字で書くとわかりにくいかもしれないが、R35型GT-Rのトランスミッション内には油圧でシフトを動かすための筒状のアクチュエーターが備わっており、変速の度にこれがガチャガチャとスライドしている。
そのかん合部がすり減ってしまいガタ付きが出たということだ。どのように直したかというと、すり減ったかん合部に金属製のコの字型対策キャップ(日産の対策部品)を3箇所ハメるだけ。ACMはオイルパンを外すとそのすぐ上に位置するため、トランスミッション本体を車両から降ろすことなくACMだけを脱着することができるのだ。
ちなみに部品代はたったの1000円未満! 保証適用のため無償修理となったが、その詳細を聞いて「どうなることか……」と心配した気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまった。この対策キャップだが、10年モデル以降のR35型GT-Rには最初から装着されているので同様のトラブルは回避できる。
逆にそれ以前の07年/08年/09年モデルにはいつ起きてもおかしくない症例と言うこともできる。初期型はすべて新車から5年以上が経過しているので保証対象外ではあるが、それほど大きな出費ではないので未対策の車両はぜひ金属製キャップを装着しておくことをお勧めする。 2度目のトラブルもやはり偶数ギヤへの変速が不能となる症状だった。こちらは走行12万5000km時に発生した。原因はトランスミッション内にある油圧センサーの不良。12万kmオーバーということで、単純にセンサー自体が寿命を迎えたようだ。
こちらはNISMO大森ファクトリーにて新品センサーに交換することで復帰。それ以降は、今回発生した原因不明のトラブルを除き、トランスミッションの不具合は発生していない。
今回、新品に載せ換えるという決断をした大きな理由は、「この先も10万、20万kmと乗り続けたい」と考えているから。実は、ミッションを降ろしてみるとフロントタイヤに駆動トルクを送るトランスファーのカップリング付近にあるカプラー内からのオイル漏れも発見された。
4速にシフトダウンできない原因として、「シフトスリーブが擦り減っており、4速へのシフトダウン時に振動などのいくつかの要因が重なってフォークが動かないのではないか」と担当メカニック氏は推測。日産が認定しているGT-R特約サービス工場でもあるNISMO大森ファクトリーは、GR6型デュアルクラッチトランスミッションの分解・整備を行っており純正部品もほぼ新品で揃う(特約サービス工場はほかに「ノバ・エンジニアリング」と「ノルドリンク」がある)。
しかし、前述のシフトスリーブやフォーク、カップリング、摩耗が進行しているであろうクラッチASSYなどを新品に変えるとなると、100万円以上掛かる可能性も。そうなると、いっそのこと150万円(税別)の日産純正新品トランスミッションに載せ換えてしまったほうが多くのメリットを享受できる。
純正トランスミッション=150万円と聞くと、「べらぼうに高い!」と感じる方も多いだろう。
だが、2007年のデビューから2014年あたりまでは同じ新品純正ミッションが250万円(税別)で売られていのだ。つまり、現在は100万円も値下げされているということ。加えて、このミッションにはクラッチ(2つ)/フロントトルク伝達用カップリング/トランスファー/リヤLSDがすべて内蔵されているのである。
例えば、R34型スカイラインGT-Rに搭載されていた純正のゲトラグ製6速トランスミッション(現在の部品価格54万円)やトランスファー(同21万7000円)、クラッチディスクなどを交換することを考えると、R35の新品トランスミッションと変わらない価格になってしまう(ちなみに、リヤLSDはすでに製造廃止となっており新品は手に入らない)。
アッシー交換はトランスミッションだけでなく
クラッチやトランスファーなども一新できる
今回起きた原因不明のトラブルの心配から解放されるだけではなく、ほかの部品も「すべて」新品になる。つまり、またゼロからのスタートが切れるのだと考えると決して高い投資だとは思わない。
先程挙げたトラブルの症例に関しても、新品のトランスミッションはすべて対策が施されているという。そう考えると、この先20万km、いや30万kmだってトラブルフリーで乗り切れるかもしれない。
各部に対策がされている11年モデル〜現行の17年モデルまでに関しては、トランスミッションの不具合の可能性はほぼ一掃されている。逆に、07年〜10年モデルまでの初期型は、いつ何が起きてもおかしくない状況と言ってもいい。
初期型のR35型GT-Rに長く乗り続けようと思うなら、いつかは新品に載せ換えることを想定しておいたほうがいいかもしれない。
ご存じの方もいるだろうが、R35型GT-Rのトランスミッションは新品ASSYもしくは一部の純正部品のみしか供給されておらず、前述のGT-R特約サービス工場以外での修理は社外品や中古パーツの使い回しでしか対応できない。
諸々の事情があるのだろうが、チューニングショップなどでも純正部品単品での入手が叶うようになれば救われるオーナーも増えるはずだ。実際、ミッショントラブルを契機にR35型GT-Rを手放したという方も少なくない。そういった周辺の環境が変わってくると、いつかはR35型GT-Rに乗ってみたいと思うオーナー予備群も安心できるようになるだろう。
トランスミッションを新品にしてからというもの、本誌のR35型GT-Rはこれまでとは大きく乗り味も変わった。今後も「GT-R Magazine」の誌面で引き続き運行日誌(レポート)を継続していくが、初期型R35型GT-Rの駆動系ではもう一つ気をつけたい部分があるので、トランスミッション交換後のインプレッションと合わせて近日中に「続編」をお届けしようと思う。
(レポート:GT-R Magazine編集部)
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