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大学自動車部イベントで見た「クルマ好きの若者」とは

大学・自動車部はどこで活動しているのか?
新入部員はどのように獲得しているのか?

4月15日に大阪府泉大津市で開催された「全関西大学新歓フェスタ」。関西12校の大学の自動車部が主催した新歓イベントには、新入生だけでなく現役の自動車部部員も訪れていた。
「若者のクルマ離れ」と言われている昨今、現役自動車部員に聞いた「今の大学生のクルマ事情や考え方」などを調査。果たして、若者のクルマ好きは存在するのだろうか。

まず自動車部の活動についてだけど、「全関西大学新歓フェスタ」に参加した自動車部の多くはジムカーナやダートトライアルに参戦することを活動の軸としていたようで、新入生勧誘のときもモータースポーツに参加することで体験できる魅力についてうたっている。

ほとんどの自動車部はジムカーナ、ダートラ、そしてエコドライブコンテストにフィギュアと呼ばれる操作性の正確さを競う競技に参戦している。

競技車両に同乗させて興味を持ってもらう

その新入生だが、自動車部に入部してくるくらいなので、もちろんクルマに興味を持っているが入部時はまだ運転免許を持っていないケースも多い。
そこで部活の一環で行うジムカーナやダートラ練習会で先輩がドライブするクルマの隣に乗せ、街乗りとはまるで違うスポーツ走行時のクルマの動きを体感してもらったりメンテナンスなど通じてクルマの魅力を伝えているとのこと。つぎにクルマだが、自動車部には競技に参加するための「部車」と呼ばれる部が所有するクルマがある。
1大学の所有台数は1台~2台というのが最も多いパターン。
複数台持たない理由はもちろんコストで、競技車を作ることだけでなく維持すること、走らせることにもお金が掛かるのため多くのクルマは持てないのだ。
ただ、国立大と私大を比べると私大のほうが資金的に余裕があると言える状況らしく、部車のグレードや改造レベル、使うパーツは私大の部車のほうがよいことが多いとのことだった。

関西学院大学学生体育会自動車部の部長さんで競技成績は関西で1番とのこと。一緒に映っているのが部車のホンダDC2型インテグラタイプR。メカについてもエンジンやミッションの組み替えや部活でやれる範囲を広げて部のレベルアップをしていきたいとのこと。

部車に乗るドライバーを選考会で決定
サポート側もスキルアップする努力

では、そのクルマに誰が乗るのか?ということだが、競技会が近づくと部車を使った選考会が開催され、いちばん速かった部員がドライバーになると言う方法が一般的。

まあ、タイム勝負だけにその都度選考と言っても乗れるメンツはある程度絞られるだろうが、下級生にとっては練習の成果を見せられる舞台でもある。選考会は下級生にとってある意味大会みたいなものだ。そしてドライバー以外の部員はメカニックやサポート係に回って、全員で試合に向けて準備していくという流れになっている。

京都大学体育会自動車部の方。今年四回生で原子核コースの勉強をしているとのこと。整備が好きで自分でクルマを作って走らせている。
このシティのほかに旧規格のアルトも所有しているとのこと。新入生には自分でいじれて走って楽しいクルマに乗って欲しいという。
古いクルマは不調になることもあるけど、そう言う事態に対応する手段は部に入って覚えていけばいいことで、自動車部はそんなところだと思っているとのことだった。

クルマが好きで部に入っているだけに「サポート側ではつまらないのでは?」と思ったりもする。
そこについて聞いてみると、練習会ではサポートに回った部員も部車に乗ることができるし、助手席に同乗OKの練習会では、先輩が横に乗ってドライビングのアドバイスをするという。
競技には出るが部活なのでひと握りのトップガンを育成するのではなく、部全体のレベルの底上げを行っているとのことだった。

また、当初はドライバーを希望して入ってきた部員がメンテナンスをしていくうちにメカに興味を持ち、メカニックとしての技術や知識を高めていくというケースもあるという。

自動車部の活動については大まかに言うとこんな感じのようだが、一部の現役部員からは「競技に出るという方向だけでなく、部として意義のあるほかの活動も考えていく時期」という発言もあった。
今回の全関西大学新歓フェスタのような新歓イベントを企画することもそうだし、自動車部という立場から今どきのクルマ、これからのクルマにどう接していくかを考えていくためというの意味も含んでいることである。その一つとして、イベントに協賛した「ヤナセ」は、最新モデルのメルセデス・ベンツを持ち込み、学生を乗せて同乗試乗を行った。

クルマ趣味の「これから」についてはクルマ系メディアだけでなく自動車メーカーも色々と考えているところだが、今はまだ「これだ」というものはない。
そこに現役の「若者」である自動車部のアイデアが入ってくれば一気に道が開けるかもしれない。
今までのクルマ遊びの歴史を振り返えると、その時代に合った新しいクルマ遊びを牽引してきたのはその時代ごとの若い年代だ。
ところがいまは大人層の勢いが強いので、若い世代からの流れが発生しにくいのかも知れない。
若い世代が本気で自分たちのクルマ遊びを立ち上げてくれることが物事の流れ的には自然であるだけに、自動車部の方にはその先鋒になって頂きたい、と思う。

大学生のほしいクルマと
買えるクルマは2000年代車

イベントは大阪湾の港湾地区を利用していたので、会場への足はクルマが基本。
駐車場には現役の自動車部員さんが乗ってきたクルマが止められているのだが、1990年~2000年初頭の年式のクルマが多かった。

これらはもう20年近く前のクルマなので中古車価格も買いやすい値段になっていることもあるが、クルマの値段だけで言えば高年式でも安いクルマはたくさんある。それなのになぜ古いクルマを選んでいるのか? 次はここについて聞いてみた。

同じ質問を何人かの部員さん達に聞いたところ、選ぶ理由として挙げられたのが「遊べるクルマ」であるということ。この「遊べる」についてもっと聞いてみると「イジって遊べる」ということと「走って遊べる」のふたつの意味があった。

部の活動とは別にドリフトをしている部員もいる。学生ドリフト大会も開催されていて、そこで上位になれば学校から補助も受けられるという。
手前の日産S14型シルビアは購入したばかりとのこと。手に入れるために乗っていたバイクを売却し、貯金も使ったという。奥の日産S15型シルビアはすでに大会にも出ているクルマ。消耗品代、修理代とお金が掛かるのでバイトが忙しいそうだ

このうち「イジって遊ぶ」だが、2000年前後はチューニングが人気の時代。改造パーツも多く販売されていたので中古パーツが豊富に流通していている。
ゆえにクルマいじりにおいてコストが掛かるパーツ購入の負担が少なくて済む。さらに、2000年代はクルマの電子制御もいまほど高度ではないので、パーツの装着や修理を部の作業スペースと設備を使って自分たちで済ますこともできるのが魅力という。この辺はすべての世代で共通の意見だと思う。

 

走って遊べるの基本は現役大学生でもMT車

つぎに「走って遊べる」だけど、ここでまず大事なのがMT車であるということ。これも世代問わずのものだろう。そしてやはり「ある程度の速さがある」ことだ。そういう面から選ばれていたクルマがインテグラタイプR、シビック、セリカ、スターレット、ロードスターなどだった。

駐車車場でドライブシャフトを交換していた強者もいた。しかし、重要な作業時、持っていた工具が使えず、会場にきていた先輩も該当工具を持っていなくて泣く泣く組み直しとなった。最後まで見ていなかったけど無事に帰れたんでしょうか

これらのクルマは先輩から譲り受けて乗り継ぐと言うケースも多いようでその場合、すでにチューン済みでしかも安価だったりする。そして受け継いだ人はそのクルマをメンテしながら乗り次の世代へ譲るというクルマの流通パターンもあるようだ。

大阪大学の自動車部に所属する2年生さん。部車はホンダCR-XでこのトヨタEP91型スターレットは自分のクルマ。下級生からクルマ購入の相談を受けることもあるが基本的には自分の好きなクルマに乗って欲しいという考えとのこと。

予算は20万〜30万円!でも乗るならハイパワー車

古いクルマは故障が多かったり整備に手間が掛かったり、修理用パーツが手に入りにくくなっているのも事実で、自動車部員さん達もそこは悩みのタネでもあるようだ。
それならば前出のクルマに比較的近い「マツダDE型デミオ、トヨタ91型ヴィッツ、ホンダGE型フィットなどに乗ってはどうか?」と聞いてみたところ、学生が出せる一般的な金額がだいたい20万円から30万円なので予算的にオーバーだとのこと。
それに多めの予算になるなら年式が古くてもいいのでランサーエボリューションやインプレッサWRXなどのハイパワーターボ車に乗りたいと言う意見もあった。

クルマを探しているときに見にいった1台がこのGTO。
当初は買う気はなかったと言うが実車を見ているうちに気に入ってしまい購入。
パワフルだし、迫力のスタイルもあるし、あまり走っていないところなど魅力の多いクルマとのこと。GTOといえば現役時代の人気は今ひとつだったが、パフォーマンスも高く装備も豪華なこのクラスのクルマが安価で買えるならかなり「アリ」と言える。
4WD、V型6気筒ツインターボエンジンを搭載。この型はゲトラグ製の6速MTを搭載し、ブレーキもアルミボディの4ポッドキャリパーを装備。

ということから見ると値段の面と用途の面が折り合うのはやはり2000年代前後のクルマになるだろう。
この世代にはホンダDC2型インテグラタイプRのようにいまも高値安定のモノもあるが、古いだけになっているMTのスポーティカーもあるので、そう言う中古車には彼らのような学生さんたちのために「学割」があってもよいのでは?なんて思ってしまう。

父親の知り合いから格安で譲ってもらったと言うR32 GT-R。有名ショップで合理的な仕様でチューンされている良質車。
エンジンの細かい仕様は不明と言うことだが排気量は2.6ℓのまま。タービンはHKSのGT-SSツイン仕様。F-CON V Pro制御でパワーは500~600ps。岡山国際サーキットで4速全開まで体験済みだがそれでも十分速いとのこと。
ボディも大事にされていたようで程度がいい。室内も非常にきれい。純正ステアリングが好きなのでステアリングは交換せずにいる。

 

 

DC2インテグラタイプRの積載性の高さ!?を写した写真。ずいぶんワイルドな積載法だ。タイヤは10本以上入るとのこと。こういうところも学生さんたちには人気のようだ。

経済的な理由でクルマは持てないけどバイクに乗っているという部員も多いという。

京都大学体育会自動車部の部員さんが乗る日産12型マーチ。インパル取っ手?付きのモデル。グラベル仕様のラリー車で車高が上がっているところがカッコよかった。

今の大学生は新しいクルマに興味がないのか?

では、いまのクルマに興味はないのかというとそう言うことでもない。
部員のなかには新しいクルマに興味を持っている人もたくさんいるとのことだし、古めのクルマが好きな人からも「最新のクルマに搭載されている技術はすごいと思う」という発言もあった。
また、ハイブリッド車や燃料電池車にも乗ってみたいと思う気持ちがあるとも言っていた。
さらに部の活動で行っている競技でも、電子制御やAT、CVT、DCTなどの性能を生かした走り方を覚えていきたいという気持ちもあるとのこと。

古いクルマが好きな部員もいれば新しいクルマが好きな部員もいる。でも、古いクルマに乗っていても新しいクルマに興味がないわけではなく、機会があれば乗ってみたいとのこと。最新のクルマを現役の自動車部の人がいまの人の感性にどう見えるかはかなり興味がある。

しかし、現実の問題としてその手のクルマを自動車部で所有することは予算的に不可能だし、大学の友人でも乗っている人はいないに等しい。かといって自動車ディーラーに試乗だけしに行くというのもない。
乗れたとしても短い時間なので部活としての体験レベルにはほど遠い。つまり自動車部員が新しいクルマのことを知りたいと思ってもそれにじっくりと乗る機会がないのだった。

今のクルマの良さを知るには触れる機会が必要だ

学生向けの新型車試乗会の開催してもいいのではないか?という考えが浮かぶ。
ただ、それをやったからと言って学生が高年式車に乗り換えるなんてことにはならないだろう。
そもそも乗らない理由には「高くて買えない」と言うことも含まれているのだから。
でも、ここで大事なのは目先の代替えではない。肝心なのは「いまのクルマのよさを今の若者が知る」ということで、それがあってこそクルマ遊びが正しいカタチで未来へ続くのではないだろうか。

こちらはOBの方。自動車メーカーに就職したとのことで、ゆくゆくは自分でクルマを企画し、開発していきたいとのこと。「今日は走らせてもらえると聞いたので、タイヤを履き替えてきたんですけど」と言っていた。自動車部の卒業生は自動車メーカーに就職するケースが多いということだが、クルマが好きな人がクルマを作る側に回ってくれるのは大歓迎でしょう。

(レポート&撮影:深田昌之)

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