エンジンを冷やして守るのは水
オイルの温度を下げても冷えない
チューニングカーやサーキット走行をするクルマにとって、そろそろエンジン冷却水の水温上昇やエンジンオイルの油温上昇が気になってくる時期だろう。そこで冷却系のチューニングが必要なのだが、代表的な手段はラジエターの大容量化やオイルクーラーの装着。
そもそも一般的なクルマは水冷エンジン。水もオイルもエンジンを冷やす役目を持っているが、果たしてどちらを優先するべきなのだろうか? それぞれの効果や注意点をチェックしてみた。
冷却効率を高めるためにラジエター交換とオイルクーラー装着のどちらを優先するべきかを考える前に、そもそもエンジンは熱を動力に変換する機械なので変換効率のいい温度がある(排ガス浄化などいろいろな観点から考える適温もある)ので、「エンジンを適正な温度に保つ」ことが重要だ。
カンタンに言えば、冷やしすぎてもダメと言うこと。
そしてエンジン温度の調整を行っているのがラジエターを含めたエンジンの水まわりなので、チューニングしたあとの水温を適正に保つにはラジエター交換を行うことが構造的には理にかなっている。
また、水温は上がりすぎるとオーバーヒートでエンジンにダメージを与える(エンジンブロックに歪みが生じて気密性が落ちる)。これを予防するために、エンジンECUには水温が設定値より上がるとエンジン保護のためにパワーを落とすような保護機能がある。安定したパワーを発揮させるためにもラジエター交換は有効だ。
エンジン冷却水を使った水冷式オイルクーラーを付けていることがある。スポーティ系のクルマに搭載されるエンジンに多い手法で、冷却水の温度を下げることは水冷式のオイルクーラーの効果も高めて油温の上昇を抑えることにもなる。
このことから冷却系チューンでは水温が上がりすぎないよう、ラジエターまわりの対策から考えるほうが優先と言えるだろう。
もちろんエンジンオイルにも冷却の効果はあるが、主な役割は潤滑なのでエンジン温度の調整という点ではサブ的な存在と言える。
ラジエター交換時の注意点だが、たまにラジエターとエンジンの間につくシェラウド(ファンのまわりにあるフード)を外してしまっているクルマを見ることがあるが、これは本来の冷却性能を発揮できていない。
ラジエターに外気を効果的に引き込むためにカップリングファン、もしくは電動ファンが付いている。
シェラウドは、これらファンによって作る風の流れを導くためにあるもの。これを外してしまうとラジエターに適正な風が通り抜けなくなり、当たる風が少ないスピード域や渋滞時に水温が上がってきてしまうと言うことになる。ヨーロッパ車では、ラジエータグリルとラジエータの間の上部を塞ぐことで、外から引き込んだ冷却風を効果的にラジエータに当たるようにしている。
また、冷却水も重要。エンジンの水路内は水流も強いため、冷却水内に気泡が発生しやすい状況でもある。この気泡(=気体)は冷却水より熱の交換率が低い。それゆえエンジンからの熱を吸収できず、結果的にオーバーヒート状態になってしまうのだ。
そこでエンジンに入れる冷却水のロングライフクーラント(LLC)には、気泡を立ちにくくする添加剤も入っているのだが、これも長年使っていると劣化する。だからチューニングやスポーツ走行を行うときはLLCを新品に変えておくといい。ラジエターがノーマルならなおさらだ。LLCにも高水温対応のスポーツモデルがあるのでそれを選ぶのもいいだろう。
オイルクーラーは潤滑を守るための冷却装置
オイルクーラーの必要性は、ここまでの話だと冷却水の対策をしていればオイルクーラー装着は必要なく思えるかも知れないが、そんなことはない。
水温と油温の上昇はともに関連している。だが、まったく同じように上がるわけではなくエンジンや走り方によっては、水温は上がらなくても油温が高めになってしまうケースもある。
そもそもオイルクーラーも適正な油温を保つための冷却装置。一般的に油温が140℃を超えると、油膜を保持することが難しくなり、潤滑性能を維持できなくなってしまうのだ。
オイルクーラーには空冷式と水冷式があるが、単純にオイルの温度を下げることではコアサイズが選択でき、付ける場所の自由度がある空冷式が有利だ。
しかし、空冷式は外気温がグッと下がる冬場は冷やしすぎになる場合もある。
エンジンには適温があり、その目安となるのは油温。適温になるとエンジンの各パーツが金属膨張し、設計値のパーツ間のクリアランスが確保される。つまり、オイルが冷えすぎるとそのクリアランスが広く、エンジンのフィーリングが悪くなったり、最悪の場合油膜切れして金属接触を起こす可能性もある。
そのようなことからストリートカーでは、エンジン冷却水を利用する水冷式のほうが四季を通じて温度を一定に保ちやすいので便利と言えるだろう。
オイルは劣化よりも汚れに注意!
最後にエンジンオイルについても触れておこう。
チューニングしたりスポーツ走行をするときは「純正より高品質、高性能」のオイルを使うことが大前提。さらにサーキット走行などエンジンの負荷が高い走行をするときは、交換時期の前だとしてもオイルは新品に交換しておくことをオススメする。
ちなみにオイル交換をする理由として「オイルが劣化した」といういい方があるが、オイルメーカーにとっての「劣化」とはオイルの分子構造が崩れたことを指す。
ところがイマドキのオイルはそう簡単に劣化はしないこともあり、オイル交換のサイクルは長くなっている。しかし、なぜ交換が必要なのかというとオイル内に金属粉、スラッジなどの不純物が混じり、それが潤滑性能を落とすからだ。また、混合気の吹き抜けによりオイルにガソリンが混じることもオイルの性能を落とすのでこれも交換の理由となる。劣化したオイルではオイルクーラーで油温を下げても効果は少ないので、油温に関しての意識が高い人はクーリングの面だけでなくオイル自体にも気を使ってほしい。
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