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スカイラインファンが「V35型」以降を別モノという理由とは

ファンの間では「別物」と認知される2台
その真実をスカイラインの開発者が語る

現在、トヨタ・クラウンに続き、日本で二番目に古い自動車ブランドであり、日本一熱狂的なファンを抱える日産スカイライン。
開発者の顔が見え、常に日本最高のグランドツーリングカーを目指すスカイラインだが、古くからのファンの間では10代目であるR34型以前と11代目のV35型以降では「別物」と捕らえる人が多い。
しかし、意のままに操れる楽しさなどR34型以前から連綿と続く開発陣の思いは同じだった。

R34型以前のエンジンは直列6気筒(以下直6)、V35型以降はV型6気筒(以下V6)と異なり、11代目からはグローバルカーとして本格的に海外輸出をスタート(海外名:インフィニティG35、現在はQ50、Q60に変更)するなどそれまでの流れと一線を画するものはあった。

R34型スカイライン

RB系直列6気筒エンジン

V35型スカイライン

VQ系V型6気筒エンジン

だが、日産自動車とファンとの間に軋轢(あつれき)を生んだ大きな原因は、平成11(1999)年の東京モーターショーに次世代のV6高級車のスタディモデルとして展示されていた『XVL』が、そのままの姿でV35型スカイラインとして登場しまったことだろう。

XVL

XVLの姿を見ることなく、「これが11代目のスカイラインです」とデビューしていたのなら、ここまで否定されることはなかったはずだ。では、11代目以降は本当にこれまでのスカイラインの流れを断ち切り、新しい道を歩み始めたのだろうか?

9代目のR33型から12代目のV36型まで開発に携わった元日産自動車の吉川正敏氏が平成29(2017)年4月23日、長野県岡谷市の「プリンス&スカイラインミュウジアム」のオープニングイベントにゲストの一人として登場。”スカイラインのターニングポイント R34~V35へのバトンタッチ”をテーマにしたトークショーでその開発の裏舞台を語っている。

「スカイラインには100人に伺えば100人のスカイライン像があり、例え自分で購入しなくとも2時間は話題が尽きない、熱い気持ちをもったオーナー、ファンが数多くいらっしゃいます。思い入れを持って意見を述べていただけるのは開発者冥利に付きますね」とまずはオーナー、ファンに感謝を述べる吉川氏。

R32型スカイラインGT-R

「R34以前のクルマ作りはまずR31以前とR32以降に分類されます。今回はV35との繋がりの話なので、R31以前については割愛します。R32からR34まで端的に話をすると新生スカイラインとしてR32でタネを巻き、R33で上手く引き上げ、R34で上手く仕上げる。つまり3世代をかけてしっかりとした車両造りを行ってきました。R32時代は日産のP901活動もあり、シャシー、サスペンションなどにイノベーティブなものが誕生し、操縦安定性が大幅に向上し、シャシーコンポーネンツも引き上げられました。また、R32の途中からは衝突安全性能という要件がさらにプラスされた時代でもあります」

プリンス自動車の流れを組む、スカイラインの開発では世代ごとにクルマをイメージするストーリーを作った上でクルマ造りを行っていた。「思想を持ってクルマを作り上げる」。こうした部分があるから心に響くのかもしれない。

R34型V型6気筒エンジン搭載は
実験車を作り、検討された

ただ、R32時代は操縦安定性と車体技術の組み合わせでどのような影響が出るのかまでは確立されていなかった。R32型ではテストを繰り返して、結果を出せたが、そのハンドリングの因果関係はたまたまだった。それはR33型の開発初期で露呈。シミュレーション上で最良ものもができても、実際に乗ってみると全然ダメという結果に開発陣は頭を悩ませた。
そうしたR33型の経験を生かして、R34型ではシャシーと車体が一緒になって設計に携わった。これがR34型の類い稀なる強固なボディと意のままに操れるハンドリングを生んだのだ。究極のドライビングプレジャーを得るためには何をしたらどのような結果が出るという走りに対する考え方が確立されたのがR32型からR34の時代であるといえる。

「V6エンジンはV35から搭載されましたが、実際にはR34の開発段階でもテストは行っていましたし、搭載を検討していました。R32にV6エンジンを搭載した実験車も製作し、前後重量配分が変わるだけでキャラクターが豹変することクラッシャブルゾーンが広く取れるという点でV6は有利でした。ただ、新たにV6を投入する場合、日産のいわき工場に1ライン、もしくは2ライン、5000機規模の生産ラインを入れる必要がありましたし、それに対して投資ができるのかの検討を重ねました。さらにR34にはGT-Rがありましたので、V6を搭載した場合に、従来のRB26DETT型に匹敵する高性能なV6エンジンが提供できるのか、という点も課題になりました。関係者としてはV6にチャレンジしたい意志もありましたが、当時の日産の財政を考えるとそこまでの予算は捻出できず、諦めたというのが実情です」

それでもスカイライン開発陣はR34型のV6エンジン化を諦めていなかった。その一つの形がGT選手権(現スーパーGT)に平成14(’02)年シーズンからR34型のレーシングカーに投入されたVQ30DETT型V6エンジンだ。

「当時のNISMOの監督であった柿元邦彦氏に掛け合いました。投入初年度の平成14(’02 )年は思ったような結果が出ませんでしたが、翌年は熟成が進んでチャンピオンを獲得できました。もし、開発段階から熟成できていればGT選手権のR34のようなクルマがお客さまに提供できたかもしれません」

車体を固めるから車体を捻るに
V35型はしなやかさを押し出した設計

さて、話をR34型からV35型へと進めよう。

「V35はR34までで確立された『意のままに操る』という考え方を踏襲して開発されています。ただ、V35はスカイラインよりもこのクラスを購入したいお客さまがどのようなクルマを望んでいるか、を考えての設計でした。走りの性能、評価方法は変わっていないのですが、車体を捻ることを前提として、全体のしなやかさで曲がるように作っています。この部分ではボディをガチガチに固めたR34とは異なる部分です。つまり、全体の方向性はリセットされています」と吉川氏。

ある部分では新世代のスカイラインとして捕らえることは間違いではないが、走りの質はR34型までで得た基礎技術があってこそ得られたものであり、これまで同様にドイツのニュルブルクリンクオールドコースで確認も行われている。

「また、V35からは北海道の陸別テストコースのとあるコーナーに水をまき、100km/hで走り抜ける散水路テストも開発テストに加わりました。これまでのテストに加えてウエット性能を磨き上げたことで、さらにバランスのよいクルマに仕上がったと思います。ただ、欧州車のようなしなやかさを全面に打ち出したV35型でしたが、クーペ製作時は、R34よりも太いタイヤを履くことでボディの捻れが大きくなり過ぎたため、かなりの補強を入れています。そのためセダンとクーペでは乗り味がかなり異なります」

R34型までの開発プロセスで得た走りの考え方に加えて、テストコース内での施設設備が充実したことで、新しいコンセプトを盛り込んでもいいクルマに仕上げられることができるようになった。

R34型とV35型はコンセプトこそ異なれど、走りの理念は進化しながら受け継がれている。そして、FMプラットフォームという新たな車台、空力性能というR34型スカイラインGT-Rで投入した技術を進化させ、CD値=0.27、フロントリフトゼロという当時の世界最高レベルで実現するなど、日産が当時持ち得た最高の技術もこれまで同様に投入されている。
たとえバッチがインフィニティになれども、意のままに操れる楽しさ、そして開発陣の思いも含めてスカイラインの血が確実に受け継がれていることは間違いない。現在、日産の最高レベルの技術が投入された新世代エンジン「VR30DETT」型の国内導入が待ち遠しい。

V35型スカイライン誕生秘話をより詳しく知りたい方はhttp://www.nissan.co.jp/EVENT/S-EPISODE/

(レポート:GT-Rマガジン編集部)

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