30年以上も使い続けられる名機は
世代や搭載車で”味わい”が異なった
メーカーを問わず、現行モデルのラインアップからMT(マニュアルトランスミッション)がどんどん消滅するなか、スバル車には未だに2種類のMTが設定されている。
なかでも最も生産数が多く、歴史も長いのが『TY75』と呼ばれるミッションだ(ちなみにもうひとつは2代目インプレッサWRX STI〜現行WRX STIに使われるTY85。BRZはアイシン製を採用している)。
TY75が初めて搭載されたのは1984年に3代目レオーネがフルタイム4WD化されたタイミング。それから30年以上に渡り、幾多の改良を重ねながら使い続けられてきたのだ。
【TY75の大きな改良時期】
・1989年の初代レガシィでの220ps対応
・1996年の初代WRXでの280ps対応
・1998年の3代目レガシィのビッグマイナーチェンジ
ただし、近年は減少傾向に。
フォレスターや先代インプレッサの最廉価グレードに設定されていた程度になってしまった。
ロングセラー搭載車、5台をイッ気乗り!!
今回はそんな歴代の『TY75』搭載車に、改めて試乗することができた。ご協力いただいたのは岐阜県の「中津スバル」。知る人ぞ知る、スバリストの聖地である。
【インプレッサWRX(1994年式)】
まずは、TY75搭載車の中でもおそらく最も販売台数の多い初代インプレッサWRX(1994年式)。なかでも今回はクロスレシオとなる”タイプRA”に試乗した。この時代のEJ20型エンジンは低速トルクが細く、エンジンのスイートスポットも狭いが、それでもローギヤードゆえに発進から強烈に活発だ。また、試乗したクルマはクイックシフトが装着されているのか、シフトフィールが抜群。縦置きミッションならではのダイレクト感に浸ることができた。
【レガシィ(2001年式)】
続いては3代目レガシィ(2001年式)。現代の基準で見るとクラッチはやや重めだが、さきほどのインプレッサ(GC8)と比べれば明らかに軽くてファミリーカー向きだ。シフトフィールは2面性がアリ。最初は一瞬糸を引くような粘り気を伴いつつ、ギヤに吸い込まれた直後は内部の材質が硬化するかのように、重厚なフィーリングに変化する。
不等長サウンドの強弱を右足でコントロールする感覚もたまらない。
【フォレスター2.0XT(2002年式)】
お次は2代目フォレスター2.0XT(2002年式)。
SUVというキャラや用途に合わせてか、ストローク量がかなり大きめで、シフトノブも長い。人によってはダルく感じるだろうが、他とは異なる特性には好感を持てた。
その感覚というのは、ハチミツの瓶に棒を差してかき混ぜるような手応えを感じながらのドライブ。独自のリズム感があっておもしろく、実用車には理想的なシフトフィールといった感じだった。
【レガシィ(2006年式)】
続いては4代目レガシィのなかでNA(自然吸気)のスポーツグレードだった2.0R(2006年式)。
まずは繊細なシフトフィールに衝撃を受けた。ストローク量はそれなりだが、手首の返しだけで操作が可能で、とにかく手応えが上質だ。とくに各ギヤからニュートラルに戻る感触が高級で、欧州車のフィーリングにも近い。他のTY75とは別モノという印象だ。
【インプレッサ(2002年式)】
最後に2代目インプレッサWRXのSTiではなくNB(2002年)。
搭載されるEJ20型エンジンは吸気システムが新しくなり、フラットトルクかが進んだことで各ギヤの守備範囲が広がったため、ギヤの段数は5速で十分。WRXらしい硬質感を備え、ストロークもしっかり短いなど、初代からの進化のほどが見える。ワインディングを走る程度なら、STiに負けず劣らず痛快至極な印象さえ受けた。
世代、モデルごとに大きく異なる操作フィールをもつ『TY75』。
誕生から33年が経過し、そろそろ伸び代がなくなっていくかと思いきや、開発陣に聞けば、そんなことはないらしい。WRX STIやBRZ以外のモデルでもMT車の需要が高まれば、継続または拡大の可能性が広がるのだ。
スバルのMTファンは希望を捨てずに待とう!
(リポート:マリオ高野/まとめ:スバルマガジン編集部/撮影:雪岡直樹)