潤滑や洗浄などで消費はしないが
時間とともに劣化するブレーキフルード
エンジンオイルやミッション、デフのオイルの交換サイクルは気にしていても、意外にも見落とされているのが「ブレーキフルード(ブレーキオイル)」。
潤滑や洗浄などは行なわないが、時間とともに劣化してブレーキの効きを悪化させる原因となる。結論から言ってしまえば最低でも2年毎の車検時に交換するのがオススメ。
ブレーキフルードは、ブレーキペダルを踏んだとき、その圧力を倍力装置で拡大してブレーキへと伝える。ディスクブレーキで説明すれば、ブレーキフルードでブレーキキャリパーへと伝達された力は、ピストンでパッドをブレーキローターへと押し付けることで制動力を発揮するわけだ。
エンジンオイルのように潤滑・洗浄といった作業は行なわないため、エンジンルーム内にあるリザーバータンク内のブレーキフルードは目に見えるほどの汚れは進行しない。
しかし、ブレーキフルードは成分の特性上、水分を吸収しやすいため時間とともに劣化している。
また、山道やサーキットなどを走行してブレーキが高温になると、その熱がフルードへと伝達して劣化を一気に進めてしまうこともある。
ブレーキフルードが劣化すると沸点が低くなり、ハードな走行をしたとき「ベーパーロック(ブレーキフルードが沸騰し、ホース内に気泡が発生してブレーキが効かなくなること)」を起こしやすくなるわけだ。
また、ブレーキフルードが吸収した水分によって、マスターシリンダーやブレーキキャリパーのピストンに錆が発生する可能性もある。車両を長期間動かさず放置したような最悪のケースでは、ブレーキの可動部が錆で固着してしまうこともある。
ブレーキフルードの交換は
ストリート走行のみなら2年に1回
「ブレーキフルードの交換サイクルは、市街地や高速道路だけの一般的な走行をするクルマなら2年に1回が基本です」とは、ブレーキパーツメーカー「ディクセル」の金谷さん。
「山道を頻繁に走るとか、サーキットなどでスポーツ走行をすると、ブレーキ(パッドやローター)の温度が高くなり、ブレーキフルードはその熱で劣化が早くなるので交換サイクルも2年に1度ではなく、もっと短期間になるでしょう。もし、サーキット走行でブレーキペダルの踏み込み量が変化したときは、ベーパーロック現象を起こしているので、すぐに交換することをオススメします」と語る。
沸点の高さよりも低温粘度が重要
現行のDOT規格で沸点がもっとも高いDOT5とDOT5.1は、いずれもスペック上の違いはない。しかし、成分はDOT5がシリコン系、DOT5.1はグリコール系と異なっている。
シリコン系のDOT5は、ハマーやハーレーダビッドソンなどメーカーが指定するクルマ用と思えばいいだろう。これを通常のクルマに入れると、シール部の劣化などを引き起こす原因となるそうだ。
ちなみにDOT3やDOT4はグリコール系となっている。またドライ沸点とは新品時で、ウェット沸点とは時間を経過した状態の沸点を表している。
基 準 | 主成分 | ドライ沸点 | ウェット沸点 | 粘度(100℃) | 粘度(-40℃) | ph値 |
---|---|---|---|---|---|---|
DOT 3 | グリコール | 205℃以上 | 140℃以上 | 1.5cSt以上 | 1500cSt以下 | 7.0-11.5 |
DOT 4 | グリコール | 230℃以上 | 155℃以上 | 1.5cSt以上 | 1800cSt以下 | 7.0-11.5 |
DOT 5.1 | グリコール | 260℃以上 | 180℃以上 | 1.5cSt以上 | 900cSt以下 | 7.0-11.5 |
DOT 5 | シリコン | 260℃以上 | 180℃以上 | 1.5cSt以上 | 900cSt以下 | 7.0-11.5 |
ブレーキフルードは、どうしても沸点の高さばかりに目を奪われがちになるが、実は低温粘度(-40℃)も重要。
ちなみにレース用のブレーキフルードは、高温時の特性は確保されていても、低温粘度特性やpH値の面でDOT規格をクリアできないケースが多いのでストリートでは使用できないのだ。
規格による主な違い | DOT3 vs DOT4 | 沸点 |
---|---|---|
DOT4 vs DOT5.1 | 沸点、低温粘度特性 |
もちろん、クルマが大きく(速く)なればブレーキへの負荷も大きくなり発熱量も増える。
大排気量車や重量車のブレーキフルードがDOT4以上に指定されているのは、そのような理由からだ。
また、DOT4でもDOT5以上の沸点を実現している製品もある。
規格 | 用途 |
---|---|
DOT3 | 一般車輌用(小中排気量、軽量車) |
DOT4 | 一般車輌用(大排気量、重量車)、スポーツ走行用 |
DOT5.1 | 一般車輌寒冷地用(大排気量、重量車)、スポーツ走行用 |
DOT5 | 主成分シリコン 特殊車輌用(ハマー、ハーレーダビッドソン) |
ブレーキフルードの混入はできるだけ避ける
ブレーキフルードを交換するとき、一般的なグリコール系なら混入させてもブレーキの作動では問題ないが、性能面では平均値にならず低い方の性能になってしまう。
また、ブレーキパッドが摩耗すると、キャリパーのピストンの押し出し量が増えて、その分リザーバータンクの液量が減る。フルードを継ぎ足しするより、まずはパッドの残量をチェックしてほしい。
そもそもブレーキフルードは、その構造上消費されることない。液量は下がっているがパッドの残量が十分にある場合は、ホースやABS本体などからフルードが漏れている可能性を疑ってみるべきだろう。
前述したようにブレーキフルード本来の性能を発揮するには、新旧のフルードが混入しないように全交換することが基本だ。
専用の機械を使えば、リザーバータンクに空気で圧力を掛けてホースなどの内部にある古いフルードを押し出すため、新しいフルードと混ざり合うことはなくなる。
ブレーキは重要保安部品ゆえDIYでフルード交換することはないだろうが、キチンとした設備を持つショップで作業してもらうことをオススメする。
(取材協力:ディクセル)