クルマの基本性能はサスペンションから
価格よりも素材や作りを重視すべき!
車高をカンタンに下げられるローダウンスプリング。その手軽さから「価格重視」になりがちだが、「走る・止まる・曲がる」の要となるサスペンションだけに性能を重視しなければ危険きわまりない。
そんなローダウンスプリング選びで、重要となるポイントがスプリングの材質だ。シンプルな構造だけに、性能差がもっとも出る部分。その選び方で重要な項目3つをピックアップする。
クルマの基本性能である「走る・止まる・曲がる」すべてを担っているのがサスペンション。「走ると曲がるはわかるけど、止まるはブレーキでしょ?」と思われるかもしれない。
だが、4つのタイヤが路面にキッチリ接することができなければ、どんなに高性能なブレーキシステムを搭載しても、その性能を発揮することはできない。
そのようなことからもローダウンスプリング選びをするとき、性能のキモである材質が重要なのだ。もちろん、価格も決して見逃せない点ではあるが。
「引っ張り強度の高い鋼材を採用すると、スプリングの設計自由度が高まるので狙った性能を出しやすくなります。また、軽量にできるというメリットもありますね」と語るのは、サスペンションメーカー「タナベ」の土居さん。
下の写真は、タナベが採用している鋼材だ。
材質の性能を引き出す冷間成形
タナベでは他メーカーより強度の高い超高強度鋼材を採用している。
それゆえ強度の低い鋼材を使うスプリングより、バネピッチ(間隔)を広くしたり、線径(鋼材の太さ)を細くすることができるため、有効ストローク(バネが上下する距離)が長くできるメリットがある。
つまり、しなやかにストロークしつつも強靱な(腰のある)スプリングが作れるわけだ。
上の写真は量販用とレース用の直巻(等ピッチ)スプリング。車高調整式サスペンション用なので、一般的なローダウンスプリングに比べると細めとなっている。
バネレートは10kg/mmと同じだが、左の量販用の線径が13.5mm、右のレース用は13mm。レース用は細くてピッチが広いので、しなやかに動くことが想像できるだろう。
「さまざまな鋼材を使いましたが、安定した品質を出せるのはやはり日本製です。とはいえ、せっかく優れた素材を生かすために、製造段階で材質が変化してしまうような熱を入れないようにしています」と土居さん。それのひとつが冷間成形だ。 「タナベ」では、直径2mくらいに巻かれた鋼材を伸ばして設計どおりのスプリング形状にする際、一切熱を加えず曲げる冷間成形を採用。さらに鋼材を切断するときも特殊なカッター(矢印の部分)を使い、焼き切るなどの熱処理を行わないほど徹底している。
この製法によって作られたスプリングの引っ張り強度は、2100N/mm2と他メーカーより約10%高くなる。
ちなみに一般的なスプリングは、鋼材を1000度まで熱する「熱間成形」を採用する。そのため、鋼材そのものの性質が変化してしまうそうだ。
作業自体はコンピュータで指定の数値を入力するだけなのだが、気温などを考慮して作業する人の感覚と経験で微調整をする。
仕上がってきたスプリングは、1本ずつ規定値内になっているかを人の手で確認してから次の工程へと送られる。
軽量なスプリングは追従性が良い!
同じバネレートと長さながらも、線径の異なるスプリングそれぞれの重量を量ってみると、量販用は2.19kgでレース用は1.78kg。
当然のことながら、軽いスプリングは慣性重量が小さいためサスペンション自体の動きを良好となる。
これはレース用のみならず量販用でも重要なポイントだ。
ところが、軽くすると強度を確保するのは相反すること。一般的に強度を高めるために太くすると、重量が増えてしまう。
軽くても強度を確保できるようにするには、素材となる鋼材の質が大きく影響するのは想像できるだろう。
つまり線径が細くしなやかに動く軽量なスプリングを実現するには、鋼材の引っ張り強度の高さなどが重要となっていくわけだ。
また、車高調整式サスペンションや一部のローダウンスプリングは、ブラケットとスプリングの接触面が平らになっているのだが、スプリングに対して接触面が垂直になっていなければならない。この精度がサスペンションを正確にストロークさせられるかに掛かっている。
その作業は上の写真の機械で行われる。回転台に差し込まれたスプリングと、研磨材が回転して天面を削っていくのだ。
ローダウンスプリングこそ材質が重要
ローダウンスプリングは、ご存じのとおり純正スプリングとの入れ変えて装着する。
それゆえ、ボディやサスペンションの各パーツなどと干渉しないようとか純正ダンパーの減衰力特性に合わせた設計を施すなどといった理由から、純正では採用していない不等ピッチの樽形スプリングなど特殊な形状となる傾向にある。
下の写真はトヨタ・アルファード&ヴェルファイア用のローダウンスプリング『サステックNF210』。
左の2本がリヤ用で、スプリング上下は純正ブラケットにピッタリと収まるように直径が小さくなっている。
樽形スプリングは、直径の大きいところと小さいところで当然のことながらスプリングの硬さ(バネレート)が異なる。それだけに鋼材の強度が問われる部分だ。
また、樽形スプリングを採用することで、直径の大きいところは市街地では乗り心地を重視したバネレート、高速道路などでは直径の小さいバネレートの高い部分を使ってシッカリ感を出すことができる。
樽形スプリングは、中心部が乗り心地用、上下の径の小さいところが高速道路用となる。
ちなみに線径が太くて巻き数の多いスプリングは、ストロークしたときスプリング同士が密着しやすくなる。これを軽減するには、細くて巻き数を減らせばいい。それを実現できるのも使用する鋼材の引っ張り強度が求められるわけだ。
このようにただのバネ(スプリング)ではあるが、決して価格は無視できない部分ではあるが、走行安定性を第一に考えれば、材質や作り込みなどを重視してほしい。
なお、10月8日に大阪市舞洲スポーツアイランドで開催されるカスタムカーの祭典「スーパーカーニバル2017」に今回取材協力をした「タナベ」がブースを出展する。
デモカーのレクサスRXのほか、サスペンション、ボディ補強パーツ(タワーバー、アンダーブレースなど)を展示する予定だ。
取材協力:タナベ https://www.rd-tanabe.com/
スーパーカーニバル2017 http://supercarnival.ki-event.jp/