理想的なエンジンへのチューニングには
パーツ加工へのこだわりが投入されている
三菱ランサー・エボリューションI〜IXが搭載する4G63型2リットル直4エンジン。その集大成ともいえるのがランサーエボリューションIXが搭載したMIVEC仕様だ。
このエンジンに換装したランサー・エボリューションVIが、次なるステップとして選んだの2.3リットルへの排気量アップ。この作業を行ったのは関西の名店「Kansaiサービス」。同店が得意とするパワーと耐久性を両立するのは、超精密なエンジン組み付けがすべての基になっていたのだ。
三菱の4G63型エンジンは、歴代ランサー・エボリューション(以下ランエボ)だけでもエンジンの回転方向が変わるなど進化を遂げてきた。その集大成ともいえるのがランエボIXが搭載した可変バルブタイミング機構MIVECエンジンだ。型式こそ同じながらも、従来エンジンに比べ、低速域から太いトルクを発生する。
少しチューニングに詳しい人ならわかると思うが、日産スカイラインGT-Rが搭載するRB26型エンジン用にチューニングメーカーのHKSが開発した後付け可変バルブタイミングシステム『Vカム』を三菱がメーカーとして装着したといえるだろう。
さて、ここで取り上げているランエボVIのオーナーは、エンジンブローを機に4G63型MIVECエンジンに換装。これまでブーストアップ仕様(HKSのハイカム入り)できたが、8万km走行したこともあり次なるステップとして排気量をノーマルの2リットルから2.3リットルへとアップするチューニングを「Kansaiサービス」に依頼したのだ。
エンジンブロックのボーリングが完了し、いよいよ組み上げとなる。これまでの経緯については、以下のリンクでご覧いただきたい。
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ボア&ストロークアップで2.3リットル化
4組のピストン&コンロッドの重量を均等化
2リットル直4の4G63型エンジンを2.3リットルに排気量にするには、ボア&ストロークアップが必要。使用するキットは、HKS製『キャパシティアップグレードキット』。鍛造ピストン、鍛造H断面コンロッド、鍛造削り出しクランクシャフトのセットだ。
ちなみにボア&ストロークは、ノーマルが85.0×88mm。HKS製のキットは85.5×96mm。純正シリンダーをボーリングしてボアを0.5mm拡大。ストロークは、コンロッドとクランクシャフトで変更する。
ちなみに下の2本のクランクシャフトは、上段が純正で下段がHKS製。
エンジンにとって一番重要なのはバランス。エンジンは大小さまざまなパーツの集合体で、可動部分が多い。それゆえ、どこかにアンバランスが生じるとエンジンは、その性能を発揮できないだけでなく、回転フィールの悪化なども引き起こしてしまう。
そこでピストン/コンロッドは重さを測り、重量を合わせることが非常に重要なのだ。基本は、重量差が少ない組み合わせをするのだが、重量差は発生したときは手作業でピストン裏側などを削る。ちなみにここでいう重量差とは1g以下。どれほど、繊細な作業なのかが理解頂けるだろう。
とにかくパーツ一つひとつの精度を高めることで、バランスの良いエンジンに仕上がる。俗にいう「エンジンのバランス取り」とは、このような作業のことを総じた呼称だ。
ダミーヘッドを使いボーリング精度をチェック
とくにシリンダーのボーリングに関しては、かなりシビアだ。
シリンダーブロックは、前述したようにボアを広げる(拡大)ためにエンジン加工業者でボーリングをする。このとき、Kansaiサービスでは、ダミーヘッド(下の写真のシルバーの金属)をシリンダーにセット。
ダミーヘッドを使用する目的は、シリンダーの位置(中心)を揃える。規定通りのサイズに削るなど、工作精度を高めるためだ。
このダミーヘッドは、4G63型エンジンのボアを85.5mmに拡大するためだけに作られたもので、Kansaiサービスで所有している。
この状態でエンジン加工業者に渡され、ボアを広げるときは上からシリンダー内部へと研磨するジグが挿入される(下の写真はRB26エンジンの加工風景)。通常は、エンジン加工業者が持っているダミーヘッドを使用するため、シリンダーブロックのみを送る。ダミーヘッドが付いた状態で加工に出し、そのまま付いた状態で戻してもらう理由は、加工精度を高めるためだ。この状態でシリンダーを計測することで、指定通りの施工がされているか正確にチェックすることができるそうだ。まさにシリンダーとピストンは、理想通りのクリアランス(間隔)が実現できる。
このように施工前から後までダミーブロックを外さないため、ボーリング後のシリンダー上部はエッヂが立っている(矢印の部分)。純正シリンダー、加工後にダミーヘッドを外したシリンダーは、角を落としているためピストンが入れやすくなっている。この4G63型エンジンのシリンダーように角ばっていると下の写真のようにライナーを使わないとピストンを挿入しにくいそうだ。もちろん、ここまでの精度を出すためにはピストン1個ずつの径なども計測。
一般的にチューニングパーツは、純正パーツより高い精度で製作されているが、それでもKansaiサービスでは妥協することなく一つずつチェックをしてる。
シリンダーの容量も均等化
燃焼室の気密性を高めるために、バルブの擦り合わせも行う。もちろん一つずつ手作業。4バルブ4気筒の4G63型エンジンなら計16カ所。
バルブに特殊な研磨剤を塗って、回転させながらシリンダーヘッドが接する部分の密着度を高める。
エンジンのバラしたときのレポートでも記したが、バルブとヘッドのアタリは燃焼効率を高めるだけでなく、放熱性を高める効果もあるのだ(シリンダー内の熱がヘッドに伝導しやすくなる)。
燃焼室の容量も揃えることが重要だ。ピストンの上部とヘッドそれぞれに灯油を使って計測する。こちらも一つずつ行うわけだが、4G63型エンジンは4気筒だから計8カ所。
なぜ、このように細かい作業を行うのか?
考えてみてほしい。各シリンダーで容量差があったら、ガソリンを爆発させる能力に差が出てしまう。その差は高回転になるほどに大きく影響する。
そんなアンバランスを無くすためにも燃焼室の容量合わせは大切なのだ。もし、差が生じてしまったときは、ヘッドの内部を削って調整するという(削るのはピストン同様ほんの僅か)。
シリンダーガスケットは東名パワード製のメタルタイプ。厚さ1.8mmでボア径は86.5mm。HKS製メタルタイプは厚さ1.6mm、ボア径86mm。
シリンダーのボア径が85.5mmだから、どちらも使える。東名パワード製を選んだ理由は、ボア径が広いため余裕が取れ、0.2mm厚いために圧縮比を下げられるからだという。
4G63型エンジンはもともとロングストロークタイプでトルク型。これを2.3リットル化するためにさらにストロークを8mmも長くなっている。それゆえ高回転でパワーを出すより、低速域から太いトルクを発生するエンジンに仕上げるのは正解だ。
さらに純正タービンを使うため、高回転域まで回すようにすると排気のふん詰まり感が出てしまうそうだ。
圧縮比を下げることでノッキングが発生しにくく、さらに点火時期を早めることができるのでトルクアップも期待できる。
こうしてシリンダーヘッドがブロックと合体。
ロッカーアームを押し上げるラッシュアジャスターは、全て交換される(指でつまんでいるパーツ)。
ここが油圧で上下して、バルブタイミング&リフト量をコントロールする。
このエンジンにはHKS製スライドプーリーとステップ1カムシャフトが搭載されている。
バルブの開き方を調整することで、低速域からトルクフルなエンジンにセッティングできるそうだ。
シンダーのインテークポートは、段付きやザラ付きを丁寧に磨かれ、スムースに燃料と空気の混合気がシリンダーへと送り込まれるようになっている。
また、タービンは従来から使用してきた純正を継続使用。しかし、アクチュエータのみ交換している。
これはボンネットのダクトからの雨滴などが、ちょうどアクチュエータに当たり、内部に錆などが発生してトラブルを誘発することを予防するためだ。ここで紹介した以外にも、さまざまな作業が行われている。
パーツを組み立てるだけでもエンジンは始動するし、走ることはできる。
しかし、このようにパーツ一つひとつの精度を高めることで理想的な重量バランスが実現。それが心地よりエンジンフィールとパワー&トルクを効率良く発揮するエンジンへとなるわけだ。
Kansaiサービスの作業は、まさに「チューニング=調律」という言葉が相応しい。
Kansaiサービス TEL0743-84-0126
http://www.kansaisv.co.jp/