サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

ホンダ「ビート」の純正パーツが再販・再生産を開始できた理由とは

全生産台数の60%が未だに残存
多くの人に愛され続けているビート

ホンダは2017年の夏、販売を終了したスポーツカー「ビート」用純正補修パーツの再販を発表した。
これは一時的なものではなく継続的な計画で、今年の1月には供給対象部品がさらに増加。果たして、なぜホンダは発売から26年以上も経過したモデルへのパーツ供給を決めたのか。そしてこの実現までにはどんな道のりがあったのか。ホンダ部品部の方々にその真相を聞いてみた。

ホンダが「ビートをより長く楽しんでいただきたい」という声明とともに、一部補修部品の再生産を開始したのが2017年8月。徐々に取り扱い部品は増えて30パーツに達したが、今年1月にはさらに46部品が加えられ合計76パーツとなった。今後も続々と再販パーツが追加されていく予定だ。つまり、継続的にビートを見守る姿勢だということでファンとしてはうれしい限り。
そこで今回、再販に至った経緯はどういうものでどんな苦労があったのか、補修部品の管理を担当するホンダ部品部の方々に話を伺った。
登場するのは渡辺聡一郎さん、麻生真二さん、中村俊克さん、柴垣彩佳さんだ。

 

──ホンダがビート用補修部品を再販するというニュースを聞いたときは驚きました。こうした再生産はよくあることなんでしょうか。

渡辺「これまでにもたとえばインテグラ・タイプR用のブレンボ(製ブレーキキャリパー)を再生産するなど、個々の事例としては無い話ではありませんでした。ただし1車種用のパーツを広範に再生産するというのは、ホンダの歴史を振り返ってみても初めてだと言えますね」。

柴垣「背景にはビートの残存台数の多さもあります。総生産台数3万3892台のうち2016年末の残存台数は1万9759台と、約6割もの車両が残っています。通常は量産終了から20年を過ぎた段階での残存率は10%未満程度。いかに長く愛されているかがわかります」。

──それほど多くが残っているのですね。

麻生「ええ、我々としても驚くべき残存率でした。これを受けてホンダとして、ファンの皆さんが乗り続けるために何かできないかと考えて今回のプロジェクトに至ったというわけです」。

──ファンの思いがメーカーを動かしたんですね。さて補修部品についてですが、一般的に純正パーツは何年ぐらい供給しているものでしょうか。

麻生「通常は量産終了後10〜15年目の段階で、各部品サプライヤー様に最終生産のお願いをします。このとき、ある程度まとまった数量を作ってもらいます。その後、量産終了15〜20年目までを目安に、ホンダが在庫販売していくという形です」。

中村「量産終了から20年も経過すると求められるパーツの種類も限られてきまして、全補修部品中の約10%のパーツを供給するというのが通常です。それもブレーキパッドやエアフィルターなど、走らせるために必要最低限のものが主体になります」。

 

ホンダ・ビートとは?
ホンダ・ビートは1991年から1996年まで販売されたフルオープン・スポーツ軽自動車。特別なチューンを施したエンジンを運転席後方に搭載するミッドシップ方式を採用していた。ミッションは5速MTのみの単一グレードだったが、1994年に1度だけ型式変更を含むマイナーチェンジが行われた。

供給パーツの種類をさらに増強
新規作成も数多い「再販」までの道のり

 

──車検を通すため、ということですか?

中村「いえ、車検を通してさらに長く乗る、というより『なんとかあと少しだけ走らせたい』といったご要望が多いようです」。

──なるほど、「とりあえず次の車検まで持ってくれ」といった感じでしょうか。ビートではいかがでしょう。

中村「ビートに関してはそもそも(今回の再販とは無関係に)20年経過時点で全体の31%が供給されていました。これは全1600点中の500点ほど。特徴的なのはそのパーツ内訳でして、幌部分やドア・モールディングといった走行自体には影響ないものも多く含まれていました」。

──なんとか走らせるだけの最低限でなく、キレイに直して乗りたいオーナーが多いということですね。それでは、実際に今回の再販に至るまでにはどんな手続きを取ったのでしょうか。

柴垣「約3年前からプロジェクトをスタートさせています。実際にパーツ生産するためにはどんな体制をとったらいいのかを検討しつつ、お客様のニーズはどこにあるのかを把握するための調査を行いました。オーナーには有名なビートのワンメイク大規模イベント『ミート・ザ・ビート!』の2015年と2016年度では大規模なアンケートを取らせていただきました。またホンダカーズ(ディーラー)をはじめとしたショップ側にも話を聞きつつ、300部品の再生産を検討しています。これは供給が終了した約1100点のうちの約3割になりますね」。

今回再販となった『R.インサイドハンドルケース』(部品番号:72125-SS1-003ZA/2160円)はインナードアハンドル部のカバーのこと。経年劣化で割れている個体も多いのでは?

──実際にパーツ再生産をするにあたっては苦労があったのではないでしょうか。例えば当時の設計図面などは残っていましたか?

渡辺「いえ。図面が残っていない部品も多くございました。また、いざ再生産しようと思っても、部品の金型がなかったり、当時使われていた素材が今では入手不可能だったりという困難に遭遇しました」。

中村「たとえば今回、フロントブレーキキャリパーを販売できることになりましたが、当時の金型が存在していなかったので新規に起こしています」。

──それは大掛かりですね。

麻生「ただ金型を起こすだけで終了ではないんですよ。新規に型を起こしたり、(後述するような)素材変更が行われるなどして当時の生産状況と変わったものは製品自体にも変化が生じます。こうしたものに関しては我々ホンダが再度、強度や耐久性などが所定要件を満たしているかを確認してから実際の供給を行っています」。

中村「実際の製造工程でもクリアすべき点はあります。たとえば先程のキャリパーですが、新車用製品の生産ラインに混流させることはできないため、そのライン脇でビート用にひとつひとつ手組みで仕上げることにしました」。

──それは大変。価格も高くなりそうですね。

中村「一般的な流れではそうです。しかし、コストがかかるからといって販売価格に上乗せしてしてはお客様の手の届かない金額になってしまいます。ですから企画全体でコストを考え、キャリパーの販売価格については生産終了前段階の2倍弱ぐらいに抑えることができています」。

『R.フロントキャリパーサブASSY.』(部品番号:45018-ST5-003)は、再生産にあたって障壁の高かったもののひとつ。組み立ての一部工程は手組みで行われる。

 

──旧車の世界では純正部品でも価格が10倍レベルに達することも珍しくありませんから、現実的な価格なのは嬉しいです(編注:再販パーツの多くは新車時流通価格の1.5倍程度に収まっている)。

中村「他に特徴的な前後異径サイズのスチールホイールも再生産していますが、これにはちょっとした幸運がありました。というのも本来であれば金型は無くなっていたり、然るべき年数が経過しているのですが、たまたまフロントの金型だけが部品サプライヤー様に残っていたのです。このため再販にあたってはリアの金型を作成するだけで済みました」。

──それは運がいいですね(笑)。ところで、そうした苦労をせずとも、金型が残ってるものだけを生産すればいいのではないですか。

渡辺「今回の企画では、ご要望の多かった部品をいかに多くの種類に渡って再販できるかというのがポイント。よって、こちらの都合ではなくお客様のご要望を優先しています。たとえばシートベルトなどはご要望の多いものでしたが、当時の素材がなくなっていたため、マテリアルから手配し直して作っています。再販までには手がかかりましたが、おかげさまで発売開始と同時に多くのオーダーをいただきました。実は想定の10倍量の注文が入っているんですよ」。

──それはすごい。

柴垣「シートベルトに限らず、再販部品への注文数は我々の予想を大きく上回っていまして、すでに全体で予定数量の2倍の注文を頂いています」。

──要望に応えた甲斐がありましたね。

渡辺「また、今回はコンロッド等のエンジン・ミッション関連の部品もラインアップ。実はこうした機関系パーツへの要望は、お客様からの声としてはそれほど多くは上がってきていませんでした。しかし、ホンダカーズをはじめとしたプロの方と協議する過程で、今後はこうした機関部品の交換需要は高まってくるだろうと判断して再生産を決めました」。

──言わば「攻め」の再販もあるわけですね。さて今回の再販部品はどこで注文できるのでしょうか。

中村「全国のホンダカーズ(ディーラー)でご注文可能です。注文にあたって車検証等は不要ですが、事前に弊社ホームページなどで部品番号等を確かめてから来店いただくとスムーズです」。

──「生産終了したクルマのパーツを注文するだけのためにディーラーへ行くのは気が引ける」という人がいそうですが……。

中村「そんなことは全く気にしないでください。むしろ全国のホンダカーズでは、どういったお客様がホンダ車を愛してくれているのかが直接わかる、またとない機会と捉えています。むしろ大歓迎なんですよ(笑)」。

 

再販パーツの一例紹介

2016年2月現時点で再販開始されたパーツは約80点。その内容は様々だが、ここでは選りすぐりの品々を紹介しよう。

【ナンバープレート灯カバー】経年劣化でくもってきている車両がほとんど。交換で明るくなる。『ライセンスライト用レンズ』(部品番号:34101-SD5-013/842円)。

【スロットルワイヤー】機械式スロットルのビート。劣化してくるとアクセル開閉が渋くなる。正式名も同じ『スロットルワイヤー』(部品番号:17910-SS1-003/8100円)。

【コンロッド】
特殊チューンが施されたビート用E07Aエンジンではこれも専用強化品となる。正式品名は『コネクティングロッドCOMP』(部品番号:13210-P36-000/2万5488円)。

【ストッパープレート】
ピラーレスドアのビートではこのパーツによって窓に適正なテンションを与える必要がある。『ドアーガラスストッパープレート』(部品番号:72245-SL4-000/583円)。

 

HONDAビート純正部品
http://www.honda.co.jp/BEATparts/

モバイルバージョンを終了