大きく揺れ動いた老舗チューナーから
完成車ビジネスへの躍進へ
実力はありながらも運命に翻弄されたドイツのチューナーといえば「ゲンバラ」だ。
一度はその歴史に幕を降ろした彼らが、密かに復活を遂げている。本家ポルシェのお膝元ドイツ・シュツットガルトにほど近いレオンベルクの本拠地で、「ゲンバラ」の今とこれからを聞いた。
「ゲンバラ」。欧州車のチューニングが好きな40歳代以上ならば、懐かしいなぁと思うことだろう。1981年、シュツットガルトで創業し、ポルシェを専門に、ハイパフォーマンスなマシンを作っていた人気のジャーマンチューナーである。
ストリートだけでなく、ニュルブルクリンクの北コースにて最速タイムを樹立するなど、「ルーフ」や「マンタイ」にも比肩するような存在。また。チューナーでありながら85年には自動車メーカーとしての認証も得ている。
ツインターボ化したポルシェ993といったコンプリートもあれば、メルセデスやフェラーリ、ロールスロイスのインテリアをコンバージョンするなど、ポルシェ以外の車種でもエクスクルーシブな世界を構築。創立者の”ウーヴェ・ゲンバラ”氏自身はデザイナーであり、カーデザインはもちろんのこと、さまざまなプロダクトデザインも手掛ける多彩な人物であった。と、ここまですべて過去形で書いたのは、かつて「ゲンバラ」が行ってきた仕事をなぞった意味もあるのだが、2010年にウーヴェ氏が南アフリカの地で非業の死を遂げてしまったからだ。色々な憶測が飛び交うが、この事件により「ゲンバラ」はその歴史に一旦幕を降ろすことになる。
その後、投資家のステファン・コルバッハ氏によってブランドは復活。ポルシェ・パナメーラをベースにした『ミストラーレ』やカイエン・ターボをベースにした『トルナード』といったポルシェコンプリートモデルを生み出した。
続いてマクラーレンF1以来久々のロードゴーイングスーパースポーツモデル、MP-412CMに向けたプログラムを発表するなど、ポルシェ以外のメーカーに対してもカスタマイズの触手を伸ばしていったのだ。
唯一無二のコンプリートを造り上げる職人集団
ちなみに、ここ数年で「ゲンバラ」からのトピックと言えば、昨年のジュネーブショーで発表した第三世代『アヴァランシェ』だろう。
ポルシェ930の頃から連綿と続く、ゲンバラコンプリートの代名詞的な名前『アヴァランシェ』。歴代の同モデルを指名買いする顧客がいるそうで、最新版もすでに買い手が付いているとか。車両代別で20万ユーロもするコンプリートカーだが、強烈で排他的なその魅力には抗えないのだろう。
カレラGTベースの『ミラージュGT』にせよ、パナメーラベースの『ミストラーレ』にせよ、パーツ単体での販売ではなく、コンプリートカーとしての販売にフォーカスしたいというのが、「ゲンバラ」のポジション。昔は、クーペが登場した後に4WDが出て、続いてカブリオレやターボが発表されるように、新車リリースのタイミングに余裕があったからこそ、チューナー側もそれぞれにアプリケーションを用意できた。しかし今は一気にボディバリエーションが発表されるようになり、チューナーもフォーカスをする必要がでてきたわけだ。
すでにポルシェは911単一のスポーツカーメーカーではなく、幅広いラインアップを誇る自動車メーカーなのである。
それでもポルシェをチューニングすることに対してブレはない。マクラーレンなどは、基本的にワンオフでオファーを受けて作るという姿勢。だから今回撮影したSLRマクラーレンも、懇意にしているお客さんからのオーダーだ。
マルチファンクションステアリングやバックカメラといった革新的なデバイスをも生み出した、創始者”ウーヴェ・ゲンバラ”。彼のようなイノベーティブなアイテムを、これからも魅惑的なコンプリートモデルとともに発表したいという。
いよいよ次のページでは、ゲンバラの最新コンプリートカーに迫る。