31年振りにフォルクスワーゲンが参戦!
パイクスピーク最速記録をEVで大幅更新
アメリカ・コロラド州パイクスピークでは、現地時間6月24日(日)に96回目となる「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称パイクスピーク)」が開催された。
このレースは1916年から開催されており、1911年スタートのインディアナポリス500マイルレース(通称インディ500)に次ぐ、アメリカで2番目に古いヒルクライムレースである。
そのような歴史あるヒルクライムレースで、フォルクスワーゲンが過去最速タイムを記録したのである。しかも、マシンは電気自動車(EV)。まさに新たなる歴史の幕が開いたといえるだろう。
パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、156のコーナーを持つ全長20kmのコースを使用する。
スタート地点の標高は2862m。そこから4302mのゴール地点まで標高差約1500mを一気に駆け上がる。その平均勾配は7度。別名「レース・トゥ・ザ・クラウド(雲へ向かうレース)」とも呼ばれている。1台ずつ出走し、ゴールまでのタイムが一番速かったものに「山の男」の称号を与える、のである。
標高が上がるにつれて酸素が薄くなっていき、エンジンの出力は約30%もダウンするといわれている。また、通常は一般開放されている公道でのレースであり、参加者がスタートからゴールまで通しでコースを目いっぱい使って走れるのは、全日コースを封鎖する決勝日の決勝レースだけという特殊なものである。
今大会の目玉は、なんといっても1987年以来、31年ぶりのフォルクスワーゲンの参戦である。フォルクスワーゲンが持ち込んだのは、「I.D.R パイクスピーク」という名をつけられた電気自動車(EV)。ドライバーには2014年、2016年、2017年の「山の男」であるロメイン・デュマ選手である。
フォルクスワーゲンはこの参戦のために3週間前から現地に入り、テストを重ねていた。ル・マン24時間レースなどのレースにも参戦しているデュマ選手も、ヨーロッパとパイクスピークを行ったり来たりする日々だったという。
その「I.D.R パイクスピーク」は、バッテリーの充電時間を考慮して、同スペックのものを現地に2台持ち込んでいた。前後に2基のモーターを搭載し、コクピット周辺などにバッテリーを搭載。バッテリーは必要最低限の量を積み、電子デバイス類は一切搭載していないという。プレスリリースによれば車両重量1100kg以下という数字があるが、それを大きく下回る、非常に軽量なモデルとなっている
このパイクスピークでの最速記録は、2013年にセバスチャン・ローブが「プジョー208T16パイクスピーク」で出した8分13秒878。EVでの最速記録は2016年にリース・ミレンが出した8分57秒118。ロメイン・デュマ選手自身の最速記録は2016年の8分51秒445であった。フォルクスワーゲンのブレスリリースではEVでの記録を破るということが目標として掲げられていたが、実際に走り出してみると、練習走行の時点から、すでに各セクションでの2013年にセバスチャン・ローブのタイムを上回る過去最速タイムを出しており、予選セッションで出したベストタイムは、ローブの3分26秒153から10秒も縮めた3分16秒083というベストタイムでセッションを終えていた。
そして迎えた決勝日当日。この日は、早朝こそ好天だったが、そこから大きく崩れていく予報が出されていた。予選でトップタイムをマークしたロメイン選手の出走は4輪部門のトップ。2輪部門の全車が出走を終えて、午前10時過ぎ、そのアタックは静かにスタートした。
サミット(頂上)上空には雲がかかり、レース・トゥ・ザ・クラウドというよりは、レース・イン・ザ・クラウドといった具合で、その走りを撮影するヘリコプターがその車影を捉えきれない状況となっていたものの、デュマ選手はプッシュを続け、チェッカーフラッグを受けたタイムは、パイクスピーク史上初の7分台のタイムとなる7分57秒148という驚異的なものであった。
EVでの総合優勝は、過去に2015年のリース・ミレン選手(9分7秒222/Drive eO P003)が達成している。だが、1916年からの約100年の歴史でパイクスピーク最速記録を更新したEVは、この「I.D.R パイクスピーク」が史上初なのだ。
パイクスピークの最速タイムは、2011年に6連勝を決めた田嶋伸博選手が初めて10分の壁を打ち破ったのだが、2012年にはコースの全てが舗装されたため(それまではグラベル区間もあった)、そこから各参戦車両のスピードは一気に上昇。そして今回も12台が10分を切るタイムでゴールしている。
わずか7年で2分もレコード記録が短縮されたわけだ。
この記録はどこまで行くのか? この記録を追いかけるだけでも、非常に楽しいイベントといえるだろう。
レポート&撮影:青山義明