「シルビア・ヴァリエッタ」こそ
洒落たクーペのあるべき系譜なのです
実はかつて、筆者はこのクルマを所有していたことがあるのですが、いろいろな事情が重なって手放すことに。しかし、そんな経緯でも「再び乗りたい!!」と思わせるクルマなのです。
とはいえ、かつて購入した金額では選べなくなりつつある状況に。切実に急がなければと思っているので、特にこのコーナーで紹介したいと思い、取り上げることにいたしました。
CSP311型、初代の日産・シルビアがデビューしたのは1965年。
ドイツ人のゲルツ氏によるアドバイスで、洒落たボディを纏ったクーペでした。小粋ではありましたが、当時の日産のイメージリーダーであり、風格というか、ある種のプレスティッジを備えていたモデルではなかったでしょうか。
その後、いろんなところで試みられる「小さな高級車」という示唆もふんだんに含んでいるように感じるこのモデル。ボディ政策を担当したのは横浜の「殿内製作所(現在のトノックス)」。その後S13型以降当たりのモデルでは、シルビアといえば走りを愛するクルマというイメージが強くなりましたが、本来は走り屋向けのクルマではなく、洒落たボディを纏い、丁寧にコーチビルドで作りこまれた車体を持つ2ドアクーペこそ、オリジナルのキャラクターだったと思うのです。
そんななか、S13型(1988-1993年)ではコンバーチブル、最後のシルビアとなったS15型(1999-2002年)では、メルセデスベンツSLKが登場して間もないくらいのタイミングで、いち早く電動開閉機構を採用した金属ルーフのオープンモデルを「オーテックジャパン」で企画。そのラインアップに加わることになりました。
その特別なS15型シルビアこそ、国産初の電動メタルルーフのオープンカー「シルビア・ヴァリエッタ」なのです。
車両価格はシリーズ中で最も高価ながら、エンジンはノンターボのSR20DE型直列4気筒を搭載。非力で車重も大きいクルマではありますが、MT車を選べば十分なパフォーマンスを発揮したし、何よりもシルビアという走る楽しみに加えて風と戯れることのできる爽快感はAT車であっても圧倒的に、そして「ヴァリエッタ」だけがもつプレミアムな個性だったといえるのです。
このクルマの製造には「高田工業」がボディ制作を担当。油圧シリンダーではなく、電動モーターを採用した金属の電動開閉式ルーフは案外タフで、何よりバックルを外したらボタンを押すだけでたちまちクーペとオープンを行き来できるため、圧倒的に自由、簡単にオープンエアドライブを楽しめるクルマでした。
そして、5ナンバーサイズなうえ、4シーターであることも魅力。
ルーフオープン時のデザインも自然であり、一般のクーペとはまた違った良さがありました。実はこういうオープンモデル、国内に限らずあまりないのです。普段から気兼ねなく乗れて、いつでも開けたいときに開けられる。実に素晴らしいクルマで、ぜひともまた買い戻したいものです。
そんな「ヴァリエッタ」。距離の少ないものは100万円台後半のタマもあってまさしく今回の条件にぴったり。身軽さでいえば、マツダのロードスターにはかないません。しかし、初代のNA型ロードスターを借りて乗った時、ホロの開閉にコツがいるのを見て、自分で乗るならヴァリエッタの方があっているなと思ったものです(NDロードスターは電動の必要がないくらい簡単ですが…)。
このクルマは真面目に、そして切実に早く購入しないと、手遅れになる。そんな危機感を覚えるもの。
総生産台数1120台のちょっといいクルマ。「シルビア・ヴァリエッタ」、早いうちに手にしておきたい一台なのです。
(レポート:中込健太郎)