エンジンのバリエーションも多彩だった
数少ないマツダのスペシャリティカー
もはや時すでに遅し、というのが実際のところかもしれません。
けれども「100万円台で買える激アツな旧車」のテーマにおいて、このモデルを挙げないわけにはいかないでしょう。
マツダの名車といえば、コスモ・スポーツやNA型ロードスター(初代・ユーノス・ロードスター)をイメージします。しかし、私としては『3代目コスモ』と、姉妹車にあたる『4代目ルーチェ』こそ声高に、マツダの歴史における民意に迎合しない姿勢を象徴し、その前後の会社の歴史にとっての欠かせない存在であることを評価しなくてはならないと思うのです。
何よりカッコいい。圧倒的にこんなにかっこいいLクラスモデル、ほかに日本にあったでしょうか。
低いボンネットにキャノピー風のキャビン。しっかりと初代からのコスモやルーチェのキャラクター、デザインアイコンを受け継いでいながらも、ほかに類を見ないアピアランスを実現しています。
ルーチェ(下の写真)の4ドアハードトップなど、どこか「アストンマーティン・ラゴンダ」に通じる印象を覚えるほどです。
くわえて心臓部は、レシプロエンジンやディーゼルに加えて、12A型ロータリーを設定。他社がなしえない孤高のフラッグシップカーという立ち位置を決定的なものにしました。さらに、その後は12Aのターボが登場し、さらにパフォーマンスアップ。高性能戦争のゴングを鳴らした当事者だといってもよいかもしれません。
しかし、個性的な外観が災いし、セールス的には鳴かず飛ばず。そんなこともあって、マイナーチェンジでは、よりクラスにふさわしいオーソドックスなマスクになりますが、いま見ても十分にスタイリッシュなものなのです。
このあたりから市場の要求とマツダの掲げる志、センスの乖離は少しずつ広がり、5チャンネル展開に至る迷走が始まったとみてもいいでしょう。
けれども、マツダにとって、いわば暗黒となったここからの20年ほどの時間は、黒歴史どころか、現在の力強い復活を遂げ、再び全開で走り始めるために必要な時間だったと。なぜなら、マツダはその間、手を抜いて、お茶を濁すようなことをしなかったと思うからです。
結果としては受け入れられなかったものの、それでも曲げてはいけないものを曲げなかった自動車メーカーとしての誇りは、強く感じることができるのです。
名車とは、往々にして、現役当時はあまり評価されなかったクルマというのが少なくありません。
まさに、この部分を狙って攻め込んでいた20年ほどだったのではないか。当時のマツダ車を見ていると思うのです。そして、そんな時代へのターニングポイントの一台と言ってもいいのが、『3代目コスモ』と『4代目ルーチェ』ではないでしょうか。
強烈に引き付けるアピアランス。これが出てきたら、凡百の輸入車ならいらない。これは断言してもいいです。そのくらい愛おしく、心をひきつけて止みません。
中古車の相場は100万円台。
需給のバランスによる相場ではなく、タマ数がかなり少ないので、出てきたものの希少性に起因する強気な金額設定としての価格だと思います。ですので、今後はこれ以上大きく価格高騰はないかもしれません。しかし金額ではなく、現存数自体が極めて少ないこのモデル。もしめぐり逢えたならば一刻も早く手を打っておきたいような…。
場合によっては、輸出仕様の”マツダ929″を逆に日本に持ち込んで、高額な費用を支払いガス検を取って(1981年以降のこのモデルは登録に必要)登録をするなどという手段を講じてでも、保存しておくべきではないか。そんな風にさえ感じるのです。
何とかしなければ。このクルマのことを思えば思うほど、気をもんでしまう。
そんな3代目コスモ/4代目ルーチェ。過ぎし日のマツダのフラッグシップカー、これ以上来ないかもしれないけれど、だからこそ、言っておかねばならない。そんなクルマのような気がするのです。
(レポート:中込健太郎)