4輪にかかる荷重をコントロール
無駄なく効率良く走らせられる
ドラテク用語でよく聞く「荷重移動」という言葉。”荷重”とは車体、とくにタイヤにかかる重さのことだと思えばいい。
その荷重が大きくなればタイヤのグリップ力が増すので、それをドライバーの意図でコントロールすればカーブが曲がりやすくなるというテクニックだ。
たとえば車重が1トンで前後重量配分が前(以下F)6:後(同R)4のクルマの場合、静止時にはフロントタイヤに600kg、リアタイヤに400kgの荷重がかかっている。
しかし、走行中つまり運動中のクルマには、慣性の法則が働くので、ブレーキを踏めば、フロントの荷重が増えて、加速をすれば逆にリアの荷重が増える。右にターンすれば、左側のタイヤの荷重が増えて、左ターンなら右側のタイヤの荷重が増える。
これはサスペンションのソフト・ハードは関係ない。サスペンション機能のないレーシングカートだって同じことだ。
そんな荷重移動が、ドラテクとどう関係があるかというと、タイヤのグリップ力が、「タイヤと路面の摩擦係数×タイヤにかかる荷重」に比例して変化するから。
いわゆるタイヤの摩擦円(フリクションサークル)は、タイヤにかかる荷重が増えれば増えるほど大きくなる。もちろん、グリップ(摩擦)には限界があるわけで、それを超えればスリップしてしまう。
前後の重量配分がF4:R6のミッドシップ車の場合、ブレーキ時のダイナミック重量バランスがF5:R5に近くなるので4輪の荷重が均等になってブレーキがよく効き、ブレーキング時の安定性がいい。
さらに加速時は、リア(駆動輪)側により大きな荷重がかかるのでトラクション性能に優れているといった利点がある。反対に、フロントヘビーのFF(前輪駆動)車は、ブレーキングで前輪の荷重が大きくなり、リアは軽くなるため不安定になりやすく、逆に加速時には駆動輪の前輪の荷重が少なくトラクションが抜けやすい……。
同じように、坂道でも下り坂ではフロントに荷重が多くかかり、ステアリングが効きやすくなり、上り坂ではアンダーが出やすい。
ただし、上り坂の方では圧倒的にコントロールしやすい。というのも、上り坂でアンダーステアが出れば、アクセルをスッと抜けば、ニュートラルステアに戻るからだ。
ところが下り坂でオーバースピードで突っ込んでしまった場合は、そのままアンダーを出し続けるか、リアの荷重の不足から、一気にスピンモードになるリスクがある。スポーツ走行では、こうした原理を利用してアンダーステアが出そうなときに、コーナーの進入で一瞬アクセルをオフにしたり、ブレーキをチョンと踏んで、フロントの摩擦円を大きくしてターンインのきっかけを作りやすくしたりする。
オーバーステアが出たときに、多くの場合はアクセルを戻すが、反対にアクセルオンで荷重をリアに移し、リアの摩擦円を大きくしてテールスライドを抑えてしまう高等テクニック(加減が難しい)もある。
エンジンブレーキが効きづらいAT車では、左足ブレーキを使って荷重移動を利用する方法もあるが、上手なドライバーほど、この荷重移動を積極的に駆使して、タイヤの性能を引き出しているといっていい。
ただし、荷重移動と荷重変動は似て非なるものなので要注意。
元レーシングドライバーの黒沢元治さんが「荷重移動は、ドライバーが意図的にスムーズな運転のために起こす動作。一方、荷重変動はドライバーの意に反して起こってしまう、起こしてしまうもの」とおっしゃっている。
つまり、タイヤが働きやすくするために荷重をコントロールするのが「荷重移動」であって、意図せず、結果的に荷重が動いた場合は「荷重変動」と区別しているわけだ。
荷重移動をものにするのは、なかなか容易なことではない。
しかし、前後左右のG変化に対する感度を高め、荷重移動を取り入れたドライビングを使えるようになれば日常の運転でもクルマの挙動は安定させられる。
(レポート:藤田竜太)