プラモの知識と腕利き職人が生み出した、
「走る老朽艦」とも言うべき塗装技術
惚れ込んだモノ・コトができてしまったらもう一直線。そんなひたむきさと趣味のプラモデルの知識を結実させたのが「ウェザリング」という塗装技術だ。
直感というやつである。そうでなければ6年前に新車で買った白いVWポロをウェザリング(風化の意味→模型を錆びたり汚れたりしてるように見せる塗装)しようとは考えないだろう。
最も大事なことは、自分の心や直感についていく勇気を持つこと。オーナーには、クルマ以外のプラモづくりという趣味が大きく影響しているのだ。
プラモにも幅広いジャンルがあるが、彼がハマっているのは45年以上の歴史をもつ「ウォーターラインシリーズ」という、実在した軍用艦の700分の1スケールモデル。ボディカラーは、趣味のプラモづくりで親しんでいる自衛隊の護衛艦の色に決定した。
どれも吃水線(ウォーターライン)以下の部分を省略して船底がフラットになっているため、ジオラマづくりに適している。そんなマニアックなシリーズなので、ウェザリングやディテールアップにこだわるモデラーが多い。
オーナー自身はウェザリングまではしないものの、リアリティあふれる達人たちの技で自然と目は肥えている。こうした素地があればこその愛車だ。
長年雨ざらしになったら雫がどう垂れるか。どう経年劣化してどこが錆びやすいか。モデラーがウェザリングするときはそれを想像したり、古くなった実物の写真を見るというが、担当したKRCの職人は施工前の劣化具合をよほど観察しているらしい。
雨水が流れそうな部分、塗装がはがれやすそうなプレスラインからリアルに錆水の跡を描く。左ドアはいっそう激しくウェザリングしてアクセントにした点も見事だ。そして、自衛艦カラーとのマッチングのよさにも感心。ウェザリングの効いたドアが装甲板のようにも見え、コンパクトなポロに風格さえ漂っているようだ。
ウェザリング塗装を生かすため、
細部の処理はマット&ダークに
他には、ツヤのあるフロントグリルやBピラーなどはマットブラックに塗装。”GTI”の赤ラインやエンブレムにも容赦なく、ヘッドライトとフォグランプにはスモークフィルムを貼り、テールランプは本国仕様のブラックテールに変えた上でスモークフィルムを施工。これによってボディとの一体感は完璧になった。
こうしてダークトーンでまとめた中、単調になりすぎない格好のアクセントとなっているのがホイール。オールペンによってマシニング処理の美しいホイールがきれいなコントラストを描いている。もしホイールまでが鈍色系だったら、ちょっと押し付けがましく見えたかもしれない。
ちなみに、ボディ色はオーナーが模型用塗料で調色したものがベース。
施工は全てKRCで”サビ具合”も職人に一任したことで、老朽艦の如くリアルに再現したのであった。