苦労はしたがそれぞれに魅力的だった、
海外のロータリー・エンジン搭載車
ロータリー・エンジンといえば、その前身である東洋工業時代から開発を続けてきた「マツダ」が“育ての親”というのが通り相場だが、“生みの親”は基本技術を考案したフェリックス・ヴァンケル(Felix Heinrich Wankel)と共同開発者の「NSU」ということになる。
そのため、欧州でもいくつかのメーカーがロータリー・エンジン搭載のモデルをリリース。ちなみに日本ではロータリー・エンジンと呼ぶが、ヨーロッパでは開発者の名前からヴァンケル・エンジン(Wankel Motor)と呼ぶのが一般的だ。
【NSU Wankel Spider】
ということで海外でのロータリー・エンジン、いやヴァンケル・エンジンの搭載例だが、まずは基本特許を持つNSUからリリースされた『NSU ヴァンケル・スパイダー』が、世界で初めてヴァンケル・エンジンを搭載したモデルとして知られている。コンパクトで軽快な2シーター・オープンで、ベースとなったのは2ドアクーペの「シュポルト・プリンツ(Sport Prinz)」。空冷の2気筒エンジンに換えてヴァンケル・エンジンをリアアクスル上に搭載していた。
スペック的には500ccシングルローターで最高出力は50馬力(後期モデルで54馬力)に過ぎなかったが、それでもオリジナル(600cc足らずの空冷2気筒)の30馬力に比べて6割以上もパワーアップされたことになり、685kgと軽量だったこともあって見事なパフォーマンスを発揮していた、という。
NSU Wankel Spider(1964-67)
6月にドイツはアルトゥルスハイム(Altlußheim)にあるオートヴィジョン博物館(Museum Autovishion Tradition & Forum)にて撮影した『NSU ヴァンケル・スパイダー』。軽快なデザインの2座オープンボディはコンパクトで今でも十分に魅力的だ。エンジンルームの上に浅いけれど広い荷物スペースが稼げていることからも、ロータリー・エンジンのコンパクトさが分かる。
【NSU Ro 80 IAA-Model】
ヴァンケル・スパイダーは、市販モデルとはいうもののテストモデル的な位置づけだったが、その後継モデルとなった『NSU Ro80』は、ボディを新規開発するなど力の入ったアッパーミディアムセダン。ヴァンケル・スパイダーのリアエンジンから前輪駆動へとパッケージングも一新。エンジンも2ローターにバージョンアップされている。
67年のフランクフルトショーでお披露目され、同年に市販されると、その技術的な先進性が評価され、68年のヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど高い評価を博することになった。ただしオイルシール不良によるトラブルが続出。クレーム対応に追われた「NSU」は経営が傾き、翌69年にはVW傘下に入るとともにアウディに経営統合されることになる。
結界、Ro80はNSUブランドで最後のモデルとなった。
NSU Ro 80 IAA-Model(1967)
同じくオートヴィジョン博物館で撮影した『NSU Ro80』。”IAA-Model”のサブタイトルが示すように、ワールドプレミアとなったフランクフルトショーに出品されたカットモデルである。
NSU Ro 80 Limousine(1967-77)
一方、ドイツのフィフテルベルク(Fichtelberg)にあるフィフテルベルク・ドイツ自動車博物館(Deutsches Automobilmuseum Fichtelberg)にて撮影した『NSU Ro80』。2ローターのヴァンケル・エンジンを搭載したことで歴史的価値が高いことに加えて、基本特許を持っているNSU&ヴァンケルの地元とあって、ドイツの自動車博物館ではポピュラーな存在となっている。
NSU Ro 80 Limousine(1977)
こちらはインゴルシュタットのアウディ本社に併設されたアウディ・フォーラム・インゴルシュタット(Audi Forum Ingolstadt)で撮影した『NSU Ro80』。
リムジーナ(Limousine:ドイツ語でセダンの意)と呼ぶに相応しいルーミーなキャビンをエアロダイナミックなボディに包んだパッケージングは、現在のアウディにも一脈通じるものがある。
実車展示は1台きりだったが、写真のような車両&エンジン単体のフォトカードが無料配布されているから、訪問の記念として忘れず持ち帰ってほしい。
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