職人の技と上質なサスペンションの融合。
もうひとつのBNR34が見せた新たな世界。
2001年5月、スカイラインGT-R(BNR34)に追加された「Mスペック」。
VスペックIIをベースとしながら、専用の上質な内装としなやかなサスペンションを採用した新しいグレードである。頭文字の「M」は、「MAN(大人の感性)」、「MAXIMUM(最高のドライビングプレジャー)」、「MEISTER(職人の拘り)」など、複数の意味を込めて命名された。
当時、某経済新聞に一面広告を打ち、ゴールドに輝くBNR34の傍らに紳士が佇む写真が全面に引かれ、「大人心、振わせる。」というシンプルなキャッチコピーだけが添えられていた。「Mスペックのターゲット層=違いのわかる成熟した大人」であることが、ストレートに表現されていたのだ。
レースで勝つために生まれたBNR32、さらなる速さを追い求めたBCNR33、その集大成として進化を遂げたBNR34。「大人向け」というGT‒Rとしての新たな価値観の提案は、いま思えば現行型R35への布石であったことに気付く。
熟練の職人が1脚ごとに仕立て上げる本革シート
そんなMスペックの注目点は、熟練の職人が1脚ごとに仕立て上げる本革シートや、1.5mm厚のクッション材を巻き込むことでソフトな握り心地とした本革ステアリングの装備。見た目はもとより、その感触にも拘っていた。
職人が手縫いで仕上げた専用シート。そのシートバックにはGT-Rのエンブレムと同デザインの刺繍が施されている。製作に手間が掛かるため、Mスペックは月に50台の限定生産だったのである。
そして、サスペンションはVスペックIIと同じ定数のバネを使用しながら、Mスペック専用の「リップルコントロールショックアブソーバ」を採用。リップルは「さざ波」という意味で、路面からの微振動入力を「まろやかにいなす」セッティン グが施されている。これに合わせて、リヤのスタビライザー径をVスペックの24.2φから23.0φに変更。VスペックIIが極限の速さを追求したタイムアタック指向とすれば、Mスペックは長距離のドライビングでも安定して速いラップが刻める耐久レース仕様。当時の開発者には、そのようなわかりやすい例えで特製の違いを説明してくれた。
ボディカラーは計4色をラインアップ
なお、ボディカラーはMスペック専用色となるゴールドのシリカブレスのほか、ブラックパール/スパークリングシルバー/ ホワイトパールの計4色をラインアップ。 リヤディフューザーは標準装備となるが、ボンネットは標準車同様のアルミ製が採用された。
エンブレムもさりげなく差別化。「R」のレッドに対してブルーの配色となった「M」のエンブレム。このあたりは、MY14以降のR35 GT-Rから採用された「GT(グランドツーリング)」と「R(レーシング)」の棲み分けの先駆けとも言えるだろう。
「Mスペック」は、2002年8月で販売終了。当時の新車価格は595万円だったが、現在の価値は倍以上とも言われている。