渾身の走りで予選2本目に期待をつなぐ
出走順はランキング24位の野村選手がトップバッターで、スタンドはいきなりヒートアップ。
「まずまず」の走りで94.01点をマーク。ただ、上位選手は限りなく100点に近いスコアを出すことが予想されるだけに、このままでは追走ファイナル進出となるトップ16は厳しい。ところが、神風でも吹いているのか、後続選手が続々とミスを連発。
1回目で24台中の上位8台が予選突破。2回目で残り8台の枠を16台が競い合うという方式だが、2回目の走行へと期待を抱かせる展開になった。
気合い満点での臨んだ2回目。「ラストになるかもしれない」と予感するファンは、黄色いフラッグと魂の声援で野村選手をサポート。結果は1回目を上回る95.89点! あとはジタバタしても仕方ない、残りの選手待ちだ。
急遽、実況席に呼ばれた野村選手も、はじめはネタを飛ばしていたが、残り選手が少なくなるにつれ、言葉少なに。最後の選手を迎える時点で、なんと野村選手が8位(まだ追走に残る可能性はあるじゃないか!)。
しかし残るは、昨年のシリーズチャンピオン藤野秀之選手。危なげない走りで96.47点をマークし、この時点で野村選手の追走トーナメント進出の夢が絶たれ、のむけんのD1が終わった…。
ファンへの感謝を述べて実況席を降りる姿に、スタンドからは温かい拍手と涙が。
会場が一体となった「のむけん」引退セレモニー
すっかり暗くなったお台場。追走トーナメント決勝が終わり、内海彰乃選手の優勝が決まると、そのまま野村選手の引退セレモニーへ。
最初は単走でコースをドリフトし、続いて、先に引退したレジェンド、熊久保重信さんと追走でドリフト…という夢のようなシナリオだったのだが、単走で「セクター2」を過ぎたあたりでまさかの失速。
「あ~」という悲鳴が会場を包み、野村選手はマシンを降りた。結局、マシントラブルで走りきることができなかったのだ。
「事実は小説よりも奇なり」。そう、台本通りにはいかないもの。
愛機ER34スカイラインの前にひざまづき、土下座で満員の観衆にお詫びすると、割れんばかりの大拍手。追走こそ実現しなかったが、盟友、熊久保さんのドライブするランエボの助手席に座り、コースを周回。黄色いフラッグが闇に揺れ、あちこちから「ありがとう! のむけん」の声が飛んだ。
ステージでは野村選手の功績を讃えるVTRが流れ、シリーズチャンピオンを決めた横井選手が花束を贈呈。熊久保さんからも花を受け取ると、涙の抱擁で、ファンももらい泣き。そして、ステージ上での胴上げ。
全てのプログラムが終わり、コースオフとなっても、野村選手とマシンの周りには、もの凄い人だかりが。サインをせがむファン、感謝の言葉を述べるファン、ただただ涙するファン。これほどまでに愛されたD1ドライバーは、野村謙を置いて他にはないだろう。
こうして、のむけんラストランの長い一日は幕を閉じた。決してこの11月3日を忘れることはないだろう。
そして、野村謙の新しいスタートを心から応援したいと思う。