ポルシェがワークス活動をするために
6台のみ製作した904の8気筒モデル
鈴鹿サーキットで行われた「RICHARD MILLE SUZUKA Sound of ENGINE 2018(SSOE)」では、初の公式レースとなった「Fusion Coin Masters Historic Formula 1 in JAPAN(マスターズF1)」が大いに賑わった。旧いF1マシンを使ったレースはもちろん、SSOEの魅力はそれだけではなかった。
マスターズF1には参戦していないものの、ヒストリックなF1マシンが元気いっぱいにサーキットを駆け回る様は、やはり見ているだけでも楽しいものだし、それ以外にもグループCから60年代のスポーツプロトタイプ、そしてミドル&ミニ・フォーミュラまで魅力的なクルマたちが第二の人生を謳歌していた。
今回は、そんなSSOEで気になったクルマたちを紹介。まずは何といってもこれが個人的には初対面となったクルマたちから。
その第1弾は「ポルシェ・カレラGTS」である。
本来的には904GTSと命名されていたのだが、間に0を挟んだ3ケタの数字はプジョーが商標登録していたことからカレラGTSと呼ばれるようになったエピソードは有名だ。
日本では1964年に、鈴鹿サーキットで開催された第2回日本グランプリでプリンス・スカイラインGTとバトルを展開したことで有名になった市販レーシングカーである。
水平対向4気筒を搭載した市販モデル「Porsche 904/4 GTS」は、結果的に100台以上が生産され、世界各国のレースで活躍することになった。
これはル・マンのサーキット博物館に収蔵展示されている1台。ル・マン24時間レースでは1964年、1965年と2年連続でクラス優勝を飾るとともに国際マニュファクチャラー選手権のGT2クラスでタイトルを獲得した。
ただし、今回のSSOEに登場した個体は”904GTS/8″と末尾に”8″が追加された特別版。
市販モデルの904には356用の空冷の水平対向4気筒2リットルエンジンを、チューニングして搭載されていた。
ところが、904GTS/8は、まだエンジン排気量が1.5リットル以下だった1962年のF1GPに参戦していたTyp 804 Formel1が搭載する水平対向8気筒をベースに、排気量を2リットルまで拡大した”Typ 771 Motor”が搭載される。
GTS/8に搭載されたTyp 771 Motor。全長と、水平対向の宿命である全幅はともかく、ヘッドのサイズ過大から高くなりすぎた全高が印象的だ。
シュトゥットガルトのポルシェ博物館にて撮影。
水平対向4気筒を搭載した市販モデルでGT2としてのホモロゲーションを取得した後、ワークス用に6台の8気筒モデルが製作されたが、現存しているのは2台のみ。
1台はシュトゥットガルトのポルシェ博物館に収蔵されているようだが、バラバラの状態とも伝えられていて、これまでに2度同館を訪れたものの、その個体を見かけることは叶わなかった。
そして、現存するもう1台が、今回SSOEに登場したこの個体、つまりこれは世界でたった2台しか現存していないうちの1台だ。
こうなるとまさに“目の正月”。たまたまピットに居合わせた関係者と2人で、『凄いですよね!』を連発したが、こうしたクルマを目の前にすると、言葉を失うというのはこのことだ、と改めて実感した次第だ。
“904GTS/8″のコクピット背後に搭載された水平対向8気筒エンジン。コンパクトなボディ/エンジンスペースに対して、ビッグサイズのボクサー8は、少しだけ押し込んだ感がある。
リアサスペンションはオーソドックスなダブルウィッシュボーン式。ラジアスロッドが車体中心線と平行に走り、コイル&ダンパー・ユニットが直立していることからも、エンジン・サイズが過大であることが分かる。
それまでのポルシェが得意としてきたチューブラーフレームではなく鋼板プレスでボックス断面を持つラダーフレームを採用。
ホモロゲーションを取得するために短時間のうちに100台を生産する必要に迫られての判断だったと言われているが、結果的にルーミーで快適なコックピットが与えられることになった。
Typ 771 Motorのオリジナルである1.5リットル仕様を搭載していた1962年シーズン用のF1マシン、Typ 804 Formel 1。スリークなボディには、やはり押し詰められた感はあるが、単体の写真よりはコンパクトに映る。
ともにシュトゥットガルトのポルシェ博物館で撮影。