過去の存在とはならない優れたポテンシャル
1989年から1994年まで生産された日産スカイラインGT-R(BNR32型)の中古車価格が高止まりしている。修復歴(事故歴)ありで走行距離不明といった悪条件でも200万円を下回ることはめったになく、走行距離5万km以下で修復歴もないグッドコンディションの個体では新車時を上回るプレミア価格をつけている。
30年前に生まれたクルマが、ここまで高く評価されている理由はなぜだろうか。
まず、ひとつには北米でのニーズが高まっていることが挙げられよう。いわゆる「25年ルール」と言われているもので、製造から25年を経たクルマはクラシックカー扱いとなり、本体は右ハンドルが禁じられているはずのアメリカでも大手を振って乗ることができる。
日本では『ワイルドスピード』というタイトルでヒットした映画やゲーム機ソフト『グランツーリスモ』シリーズの影響もあり、日本固有のスポーツカーだったR32型スカイラインGT-Rの評価は彼の地でも高い。そのブランド力によって現行GT-R(R35型)復活にもつながったわけだが、いずれにしても直6ツインターボエンジンを搭載した2ndジェネレーターを代表するBNR32の人気はアメリカでも高く、日本の中古車市場から太平洋を渡っている。
そうしてニーズが広がることは中古価格の高止まりに大いに影響しているわけだ。
とはいえ、基本的に日本国内向けの右ハンドル仕様しかなかったとはいえ、BNR32の総生産台数は4万3943台。プレミア価格がつくには微妙な台数ともいえる。たとえば日本を代表するクラシックカーのトヨタ2000GTは総生産台数が330台余りで、現存しているのはそれよりも少ない。
だからこそ”億”を超える価格がつくこともあったわけだが、BNR32についていえば”希少性”はない。しかし、スカイラインGT-Rはクラシックカーのようでクラシックカーとはいえない魅力を持っている。
例えば、第二世代GT-Rに搭載されるエンジン「RB26DETT」。ポテンシャルはストック状態で400馬力以上、チューニング次第では1000馬力を超えるのは知られているところだ。日本のみならず世界中のチューナーが手掛けたことで多くのノウハウもあり、いまでも最新の知見を取り入れたパーツが生み出されている。
つまり、アメリカでは25年ルールによってクラシックカー扱いとなっているが、現役のスポーツカーとしても十分に通用するのがBNR32というわけだ。それもこれも、その出自が市販車改造によるモータースポーツ「グループA」での勝利を開発目標としていたからの他ならない。
レギュレーションを吟味した結果としての駆動方式(4WD)であり、エンジン排気量が決定されたというエピソードは知られているところだが、さらに実戦経験を積み上げることで勝つために進化した。
もちろん、より市販車での性能が勝利に直結するN1レギュレーションでの耐久レースへの参戦もBNR32を磨き上げた。そうした結果で生まれたのが「Vスペック」であり「VスペックII」であるといえるだろう。
ボディ剛性や先進安全装備などの面では最新モデルに劣るとはいえ、速さという点においてはチューニング次第で最新モデルをリードする実力を持つのがBNR32型スカイラインGT-R。デビューから30年経っても、内に秘めたパフォーマンスは色あせていない。間違いなく歴史に残る名車でありながら、過去の存在とはならない優れたポテンシャルが、その価値を高め続けている。