自動車メーカーしかできないアップデートを予定
2012年にトヨタ×スバルのタッグにより生まれた奇跡のFR(後輪駆動)スポーツカー「トヨタ86」。数値やスペックが重視されがちなスポーツカー市場の中で、「気持ちさ/楽しさ」「使いきる喜び」といった官能性を重視して開発された。現在、日本はもちろん、北米、欧州など世界中に熱心なオーナーやファンが存在し、さまざまなネットワークを通じて86ライフを楽しんでいる模様が確認できる。
このような盛り上がりを見せた要因はどこにあるのか? 実はその答えは単純明快で、自動車メーカーが一人よがりをせず、チューニングメーカー、ユーザーとの三位一体で育てていく……と言う考え方を用いたことだ。発売当初から開発責任者の多田哲哉さんは「アフターメーカーができることは彼らに任せ。我々は自動車メーカーでなければできないことをアップデートしていく」と語っていた。
自動車メーカーにとっては「カスタマイズ=ご法度」なのだが、トヨタの英断は功を奏し、カスタマイズ業界も大きく盛り上がった。実際にトヨタ自身が驚くほどの開発スピートでさまざまなアイテムが登場したのは、言うまでもないだろう。
そんな86の兄貴分となるトヨタGRスープラはトヨタ×BMWがタッグを組むが、チーフエンジニアは同じく多田さんである。カスタマイズに関してはどのような考え方を持っているのか? インテックス大阪で開催された大阪オートメッセ2019のCARトップ・ブースに来ていただいたタイミングで、様々な質問をしてみた。
カスタマイズを見越して熱対策に力を入れた
「デトロイトショーでの世界初公開以降、世界中で話題となっていますが、やはり一番反響が高いのはアメリカですね。日本のAE86(トヨタAE86型カローラ・レビン/スプリンタートレノ)人気は『頭文字D』(マンガ)がけん引していたのと同じように、アメリカのスープラ人気は『ワイルドスピード』(映画)でした。当然、新型GRスープラもカスタマイズを前提とした仕掛けをしています」
ちなみに86ではダウンフォースのように空気で抑え込むではなく、ボディ全体に綺麗に空気を流して“包み込む”と言う発想の空力チューニング(エアロスタビライジングフィン)が話題となったが……。
「ボディ下部を覗いてもらうと、細かい部分までエアロダイナミクスを追及していることが解ると思います。大阪オートメッセでTRD製エアロパーツのコンセプトモデルが発表されましたが、ノーマルの性能を活かしてバランスよくレベルアップさせるのはかなり難しかったと思います。今回はそれより機能系パーツの仕掛けがポイントですね」。
昨年のジュネーブショーで量産車よりも先にレーシングカーが発表されたが、多田さんはこの席で「これまで量産車からレーシングカーに仕立てる際に『量産車の段階でこうしておけばよかった』と思うことばかりでした。そのため、GRスープラは先にレーシングカーを仕立てることで量産車にもいいフィードバックができました」と語っていた。
「これまでのカスタマイズでネックになっていたのは“熱対策”です。パワートレイン、ドライブトレイン、ブレーキなどを性能の高い物に交換しても、クルマ側がそれに対応していなければ能力を十分に活せません。量産車はそんな事も考えて設計を行なっています」
「まずエクステリアにはダクトをいくつか設けています。もちろん、量産モデルでは蓋が付いたダミーですが、外すと各部をクーリングできるような仕組みになっています。実は昨年VLNに参戦したレーシングカーはそれを応用したアイテムが装着されていました」
「さらにエンジン、ミッション、デフなどにはオイルクーラーを装着する際に必要なドレンを開けていますし、クーラー装着用のスペースも用意しています。恐らくチューニングの際に各部を見ていくと、解る人ならば『なるほど!!』と思っていただけるはずです。」
「実はこんな話をBMWにしたら、当然『???』でしたが、私は86を通じてカスタマイズの世界を知っているので、必要な理由をシッカリ説明すると理解してくれましたよ」と多田さんは語る。
恐らくSEMAショーはもちろん、1年後の東京オートサロン/大阪オートメッセは「スープラ祭り」になるのは間違いない。どのようなカスタマイズが繰り広げられるのか? そして開発者多田さんを驚かすモデルは現れるのか? 今から非常に楽しみである。