ハイパワー車では冷却性能を確保する
スポーツカーでは、ボンネット(フロントフード、エンジンフ―ド)に穴(ダクト)が設けられている印象が強い。現行モデルでいえば、スバルWRX STIは大きなインテークが設けられているのがアイコンとなっているし、フロントにはラジエターとモーターしか積んでいないホンダNSXには左右に大きなダクトがある。同じくホンダのシビックTYPE Rにはボンネット後方にインテークが配置されていたり、日本を代表するスポーツカーである日産GT-Rにも2つのインテークダクトを確認することができる。
当然ながらこうしたダクトはダミーではなく、しっかりとした役割がある。そのほとんどは冷却のために空気を取り込むことが目的で、とくにWRXの大きなインテークダクトはインタークーラーを冷やすことでエンジンパワーを引き出すのに欠かせない。シビックTYPE RやGT-Rはエンジンルームやタービン周辺部を冷やすことが狙いといえる。NSXのそれはフロントベイの熱気を抜くためのものとなっている。
当然、こうしたダクトは空気の乱れにつながり空力特性にはネガティブといえるが、ハイパワー車では冷却性能を確保することも安定して走らせるためには重要で、空力とのトレードオフを考慮した上で、必要とされているからダクトが設けられているのだ。
たとえば、インタークーラーを水冷式にすればボンネット上のインテークダクトを廃することは可能だが、冷やすべき熱量が減るわけではないのでラジエターのサイズは大きくなり、フロントまわりの開口面積を巨大化しなくてはならない。当然、開口部を大きくしても空力にはマイナスとなる。ボンネット上のインテークを減らしても、その分を他でケアする必要があるので、単純に空力が良くなるとはいえないのだ。ちなみに、GT-Rが採用するNACAダクトというのは、航空力学を応用したもので、小さな開口部から効率的に空気を取り込めるうえ、空気抵抗は非常に少ないなど、しっかりと考えられたものだ。
とはいえ「市販車」では、あまり役に立っていないダクトというのもある。市販車をベースにしたモータースポーツ用のモデルが、それに当たる。代表的なのが、かつてグループAカテゴリーで競われていたWRC(世界ラリー選手権)で常勝を誇った三菱ランサーエボリューションであろう。進化するほどにボンネットダクトが大きくなり、増えていった印象もあるが、あれらはレギュレーションにより市販車からの改造が許されていないからだ。
競技仕様において必要になるであろうダクトは市販車の状態で用意しておかなければいけなかった。そうしたこともあり、ダクトを設けることはコンペティショナルなスポーツイメージの強化につながるようになった。そうした評価軸からすると、ダクトを目立たせることはプラスの効果になるわけだ。
いまどきのレーシングカーでは、ボンネットにとどまらず、フロントフェンダーなどにも熱気を抜くためのダクトを設けている。そうしたトレンドはスーパースポーツに大いに影響を与えているし、もちろんチューニング指向のドレスアップ(ボディメイク)においても欠かせない要素として多くのフォロワーを生んでいる。