55歳以上しか住めない高齢者の街
アメリカの街、フロリダ州サン・シティ・センターは、55歳以上しか住むことはできない。そのような街でゴルフカートが高齢者の「足」となって活躍している。
クルマやバイクより操作が簡単であるとはいえ、スピードの緩やかなゴルフカートだけにタウンユースで不便さや危険を感じることはないのだろうか。ということで実際に自分自身で走ってみたところ、ゴルフカートが安全かつ快適に使える状況が見えてきた。
専用パーキングスペースや段差のない道路といったインフラ、さらにはアメリカ独自のモラルやルールに支えられていたのだ。
ゆっくり走るゴルフカートを煽るクルマはナシ
日本では公道を走行できないゴルフカートだが(一部の実証実験を行っている地域を除く)、フロリダ州にある高齢者しか住めない街、サン・シティ・センターは少し事情が違う。
日没まではゴルフカートが一般の車両に混じって走行し、運転免許も必要なく住人の貴重な足になっている。 しかし、いくら法律で認められているとはいえ、最高でも20km/hほどしか出ないゴルフカートだ。クルマとのスピードの違いを起因とした交通事故や、煽り運転などのトラブルを心配してしまう。それらを検証するため現地に滞在した際、知人にゴルフカートを借りて街をドライブしてみた。
まずは駐車スペースの問題。アメリカも日本と同じく大抵の店舗や施設では、車椅子マークが描かれたパーキングがある。加えてサン・シティ・センターでは、ゴルフカート専用のパーキングまで存在するのだ。
前後左右のスペースは余裕たっぷりで、小まわりの効くゴルフカートなら方向転換ができるほど。また道路と店舗や住宅の境界に当たる部分は、傾斜の緩やかなスロープとなっており、小径なゴルフカートタイヤでもまったく苦労しない。
ゴルフカートとは関係ないが、スロープは駐車場から店舗へ向かう道や、店舗の入り口にも必ず設けられている。アメリカは車椅子や歩行器を使う人が多いためか、どの街でも日本に比べればスロープの割合は多いが、サン・シティ・センターは100%に近いのではないだろうか。
マナーの良さと厳しいルール
同じ理由で店舗や住宅はほとんどが1階建て。もうひとつゴルフカートが日常の足として成り立つ理由は、マナーのよさとルールの厳格さだろう。
先に挙げた車椅子マークの駐車スペース。日本では残念なことに平気で停車してしまう健常者が少なくないが、アメリカでそんなシーンは一度も見かけたことがない。
実はマナーやモラルだけで駐車していないという訳ではなく、車椅子マークの場所に健常者が駐車するのは明確な法律違反でもある。最低でも日本円で3万円ほどの罰金が徴収されるのだ。他にも緊急車両を優先して通り越しさせるドライバーたちの動きや、路肩に停まった故障車に対する対応などは、なぜか無視しがちなドライバーが多いと言える日本より、間違いなくアメリカのほうが協力的好意的な対応が見てとれる。
ゴルフカートに対する配慮も徹底しており、今回の実施走行でムリな追い越しや煽り運転に遭うことは一度もなかった。当然ながらゴルフカート側のマナーの素晴らしさも実感した。できる限り交通の流れを妨げないように運転するし、ウインカーのないゴルフカートは手信号を欠かさず、駐車するのも決められた場所のみ。
「道路はみんなで共有する」という概念が徹底しているうえ、違反した場合には厳しい罰則がある。高齢化社会が進み交通トラブルの増加が懸念される日本にとって、ゴルフカートに限らずアメリカにはたくさんのヒントがありそうだ。