選択肢は乗車定員で変わる
福祉車両といっても、リフトアップシート車や車いすを上げるためのリフト付き車両など種類は多い。なかでもパーソナルユースの車いす仕様では、スロープを設置して車いすのまま乗り込めるタイプがポピュラーと言えるだろう。
実際、家族で介護するケースも増えているが、スロープタイプであれば普段使いできる福祉車両としての価値を見出すことができる。そうしたスロープタイプの福祉車両(スロープ車両)を使い勝手に優れる軽自動車とコンパクトミニバンで比較。実際に使ってみた感想を含めてお伝えしたい。
歩行が困難な家族、とくに高齢者の場合は通院する機会も多い。そうなると車いすのままクルマに乗降できるスロープ車両は介護する立場としても頼れる存在だ。車いすを車両の横につけて、介護者が持ちあげてシートに座らせるというのは想像以上に体力を消耗するし、ケガの元にも繋がりやすい。回数が少なければ福祉タクシーを利用するのもいいが、利用頻度が多いならばスロープ車両をファミリーカーとして使うのは十分にアリだろう。
車いすのままクルマに乗れるようになると、近所で桜の花見を楽しむなど、日々の暮らしも広がる。スロープ車両は車いすを電動ウインチで引き上げるため、介護者が力を使わずともクルマに乗せることができるのも気軽さにつながっていく。
スロープ車両としての使い勝手に差がある
また、スロープについては車いすのまま乗車する際には立てて固定するが、ラゲッジとして活用する時は前倒しにすればフラットなフロアが広がる。そのため、多くの荷物を積む場合でもネガとはならないはず。現実的に軽自動車のスロープ車両であってもラゲッジスペースはほとんど犠牲にならないのだ。
さて、ファミリーユースに使うスロープ車両の種類。軽自動車(ホンダN-BOX、スズキ・スペーシア、ダイハツ・ハイゼットなど)やコンパクトミニバン(ホンダ・フリード+、トヨタ・シエンタなど)をベースにしたタイプを一般的といえるだろう。
ただし、軽自動車とコンパクトミニバンでは「スロープ車両としての使い勝手」が大きく異なる。軽自動車タイプでは車いすで乗車する際には後席の折りたたみが必要。補助席がつくタイプもあるが、おおむね運転手を含めて3名乗車となってしまう。
一方、ホンダ・フリード+のスロープ車両であれば後席はそのままに車いすで乗り込むことが可能。つまり、運転手を含めて最大6名乗車が可能になるのだ。日常使いにおいても後席の快適性はスロープ車両だからという圧迫感を感じることはなく、車いすの高齢者がいる3世帯ファミリーでも不満なく使えるだろう。なお、同じコンパクトミニバンでもトヨタ・シエンタは車椅子での利用時には後席シートの半分を畳む必要があり、運転手を含めて4名乗車となってしまう。
こうした違いは、フリードが主に車いすを利用する障がい者や高齢者を想定しているのに対して、シエンタは運転中にも吸引などの介護が必要な車いすの乗員を想定(ストレッチャーでの乗車にも対応)という違いによるものだろう。どちらが優れているのではなく、用途に合った方をチョイスすればいい。
ところで、車いすというのは自動車のシートよりもクッション性が劣ることが多く、乗員にとってはスロープ車両で移動するのは、けっして快適ではないと感じることもあるという。乗り換えることが可能であれば、長距離を移動するときは通常のシートを使ったほうがいいだろう。そうした気配りをすることも介護者には求められる。
結論として、どんなスロープ車両が必要なのかを見極めて導入すれば、メリットはあってもデメリットはない。もちろんスロープ車両は装備の分だけ高価になるが、消費税の免税対象となっているので、意外に価格差は少なかったりもするものだ。
ちなみに、筆者は歩行困難になった母親のためにフリード+のスロープ車両を導入したが、5名乗車の小型ミニバンとして使う分にはまったく問題はなく、スロープ車両ゆえのデメリットを感じることもない。スロープや手すりなどによる重量増は燃費性能に影響しているかもしれないが、気になるほどの違いは感じないことを報告しておこう。