タイヤの縦と横のグリップの合計が10になるようにコントロールする
要するに縦と横のグリップの合計が10になるようにコントロールしながら運転すると、タイヤの運動性能=クルマの運動性能をすべて出し切った走り方になるという考え方だ。これが「摩擦円」理論の基本的な考え方で、これはこれで大事なのだが、実際にスポーツ走行をするときには、応用が必要になる。
その実践的な応用方法を、本サイトの「プロに聞く」シリーズでもおなじみの、2016~2018年までル・マン24時間レースに参戦し、一般ドライバー向けのドライビングレッスン「ワンスマ」(ワンデイスマイル)も主宰している、澤圭太選手に教えてもらおう。
「摩擦円理論はすごく重要なんですが、それをそのままドライビングで実践しようとすると、じつはちょっと問題があるんです」
「というのもタイヤのグリップ力は、縦横合計で10という考え方自体はOKなんですが、ドライバー自身が、10だと思っている最大グリップ力が、本当は10ではない可能性が大きいからなんです」
「そういう誤解が多いので、ワンスマでは普段あえて摩擦円の説明はしないのです。今回は特別にその理由がわかるよう、少し掘り下げた摩擦円の解説を試みたいと思います」
「ブレーキにしても荷重がかかる前の縦方向の10と、フルブレーキで最大荷重が前輪にかかっているときの10では、同じ10でも摩擦円の大きさ自体が違うんです。それがわからないまま、ドライバーが勝手にここが『10』のグリップと決めつけて、ターンインの開始時にブレーキを戻して、ステアリングを切りはじめ、縦と横のグリップの比を、10:0、9:1、8:2、7:3……とコントロールしていったつもりでも、その総和が10ではなく、9や8や7だったということはよくあることです」
「タイヤの最大グリップ力=10というのは、少しだけその範囲をはみ出したときに初めてわかるんです。だから、はじめから「10」を狙うのではなく、「11」を狙うことがドラテク上達の秘訣なんです。最大グリップ力をちょっとだけ越えたところから引き算していく、これがコツです」
「ターンインならブレーキでABSを作動させる=縦に10の状態。そしてターンインの開始時にそのまま少しだけステアリングを切る。これで「11」。当然少しアンダーが出るのでブレーキを戻し、縦横のグリップ比を11:0→10:1→9:2→8:3……というイメージで操作するんです」
「タイヤは一回休ませてしまうと、最大グリップを取り戻すのに時間がかかるので、常に摩擦円の淵のギリギリか、その淵をちょっとだけはみ出したところを使い続けないと、ベストパフォーマンスは出せません。目指すのは自分の操作で、摩擦円の範囲を広げていくこと」
「サーキットに来ても自分の決めた限界で走って、そこが本当にタイヤの最大グリップなのかというのを確認していない人が多いんです。ステアリング操作がとくに顕著で、自分で勝手に舵角はここが限界と決めつけていて、その舵角で自分が理想としているラインをトレースできる速度でしか走っていない人が目立
ちます」
「本当はもうちょっと先に限界があるのに、それを試さないので伸び悩む……。もったいないと思います。
摩擦円の淵がどこにあるかは、その淵をちょっとだけ越えて見ないとわかりません。また、コーナー進入時にABSが効いている状態、いわば縦方向で「10」のグリップ力を使っている状態でステアリングを切ると、まったく曲がろうとしないで直進し続けてしまうかというと、そんなことはありません。ABSが効いたまま、少しは頭の向きは変わっていきますし、それがスポーツABSの大事な性能でもあります」
「つまり 10に1を加えても11にはならないが、10.1とか10.2にはなるということ。ここがなかなか伝わりづらいところなので、私が主宰しているワンスマでは、摩擦円とは違う切り口でタイヤグリップ特性の話やグリップを引き出す手法について指導、解説しています。興味がある方は、実際にワンスマに参加してもらえるとうれしいです。」
取材協力:ワンスマ
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