タイヤブロックの高さが剛性を決める
一般道では摩耗して溝の浅くなったタイヤは危険なのですが、サーキット走行では逆に有利になります。それはなぜかと言えば、タイヤのブロックが低くなるほどに変形が少なくなる、というのが理由です。具体的には、カーブでタイヤのトレッドブロックに横方向の力がかかって変形した時、ブロックが低いほうが剛性は高いので、変形が少なくて済むからです。変形が多いとグニャリと歪みその分また元に戻る分も多く機敏ではありません。
タイヤのカテゴリーによってもブロックの高さは変えられています。例えば、乗り心地を重視したコンフォートタイヤである、ブリヂストン・レグノGR-XIは溝の深さが新品で12mmくらいあります。ところが高級車やハイパワーセダンが履くハイパフォーマンスタイヤになると7mm程度になります。もちろん自動車メーカーやタイヤの狙いによって溝深さは変わります。
溝の深さはタイヤの排水性に直接効いてきますので、コンフォート系の溝の細いタイヤは深さで排水できる容量を確保しなくてはなりません。逆に溝が太くできれば、溝は浅くてもいいわけです。
操縦性の面では、溝が浅くブロックの高さが低い方が有利な方向に働きます。ひとつひとつのブロックを大きくしてブロック剛性を高めるというやり方もあります。市販タイヤの場合は溝幅と溝の深さを勘案しながら設計しているようです。
タイヤに熱が入ると柔軟性が落ちる
ではブロックを摩耗させていったらやはりサーキットでは有利なのか、という疑問ですが、これはケースバイケースです。ゴムが劣化しない状態でタイヤのブロックを均一に削ることができればブロック剛性が上がり、サーキットのタイムアタックなどでは有利に働くでしょう。
ただ、ブロックを低くしようとしながらサーキットなどを走行しても、それほど良い結果は出ないことが多いでしょう。タイヤは均一に摩耗せず、ショルダー部だけが摩耗してしまうことなどが少なくないからです。
もう1つ摩耗してゆく時に、ブロックは低くなりますが有利にならない場合があります。この大きな理由になると思われるのが、ゴムが熱によって再架橋してしまうといことです。再架橋というのは、ゴム(ポリマー)の分子が互いに結びついてしまいゴムの柔軟性が損なわれ、ゴムが硬くなってしまう現象です。
タイヤが造られる工程では、釜に入れてタイヤを高温で熱する「加硫工程」があります。この加硫によってゴム分子同士が強固に結びつく「架橋」という現象が起こります。適度な架橋はゴムの剛性を上げますが、架橋がさらに進むとゴムは柔軟性を失い硬くなります。その結果ゴム自体のグリップ性能が低下してしまうのです。
しかし、一般道を走行するタイヤには、サーキットで厳しいコーナリングや減速加速が繰り返されるのとは違い、ここまでの熱は入りません。つまり、再架橋は起こりにくくなります。
単純に応えれば、ブロックは低いほうがサーキットでは有利ですが、均一に、しかもあまりタイヤに熱を加えすぎないように磨耗させた方が、効果ははっきり出るはずです。ちなみに、経年劣化でゴムが硬化したタイヤはグリップ力が下がっています。摩耗状況が同じでも効果を発揮できないケースもあることを忘れないでください。