レンタルカートからライセンス取得まで
前回は、モータースポーツ会場を「おでかけ先」として紹介。車いすに乗っている方のレース観戦についていくつかポイントをピックアップしましたが、今回は「自ら走る」という方法でモータースポーツを楽しむ方法をご紹介しましょう。
あまり知られていないモータースポーツの醍醐味として、「健常者と身体障害者が同じレースで戦う」ということがあります。例えば、日本モータースポーツ界の現役レジェンドの1人である青木拓磨選手。ロードレースライダーとして輝かしい成績をおさめる中、アクシデントにより下半身付随となってしまった彼は、レースを諦めず四輪に転向。ダカール・ラリーやGTアジアなどで活躍し、2020年のル・マン24時間耐久レースへの出場も決定した偉大なドライバーです。
青木選手をはじめ、多くの人々による障害者のモータースポーツ参戦への尽力があり、現在は手動運転装置などを使って「走る」という形でモータースポーツを楽しむ車いすユーザーも増加中。車いすユーザーの方(そうでない方にも)に向けて、モータースポーツの魅力を紹介したいと思います。
自家用車がなくても大丈夫
まず、サーキットを走る爽快感を味わうなら、カートに挑戦してみるのもおすすめです。カートは体がむき出し、視点も低いので、スリルと体感スピードは想像以上。例えば、神奈川県の中井インターサーキットでは、ハンドカート(手動アクセル/手動ブレーキ)のレンタルが行なわれていて、障がい者も気軽にカート体験することができます。
また、本格的にカートレースに参戦するなら「ハンドドライブクロス」通称HDXの大会も開かれています。こちらは「共生」をテーマに、障害者、健常者、青少年がともに出場する大会。全員がハンドドライブシステムを使ってレースを繰り広げます。
自家用車で体験走行、走行会に参加する
通常、サーキットを自家用車で走る場合、各サーキットの「コースライセンス」を取得する必要があります(ショップ主催などの走行会除く)。しかし、ペースカーに先導されてゆったりと走る「体験走行」イベントなら、運転免許があれば参加可能。同乗者OKな場合も多いので、運転しない人もサーキット走行を楽しめます。
また手動運転装置のショップや、各種団体によるミーティングなど、車いすユーザーが参加しやすい走行会も折々に開かれているので、イベントを探してみるのもおすすめです。さらに本格的にモータースポーツを始める場合は、コースライセンスを取得してサーキット走行の練習をしたり、「クローズド格式」のレースや、モータースポーツライセンスのいらない競技会に参加することとなります。
ライセンスを取得し公式大会に参戦する
最後は本格的なモータースポーツ活動ですが、四輪の公式大会に参加する場合、モータースポーツライセンスが必要です。国内ライセンスを発行するのは、お馴染みの「JAF」。以前は障がい者のライセンス取得は不可能と言われていましたが、前述の青木選手をはじめ、多くの人々の尽力により道が開かれ、現在はライセンスを持つ車いすユーザーも増えています。
ライセンスは、種類も等級も多岐にわたるので、ここでは国内で自動車競技にドライバーとして参戦するための基本的なライセンスを2つご紹介しましょう。
まず「国内Bライセンス」は、ラリーや、ジムカーナ、ダートトライアル、サーキットトライアル等の競技に出場するためのライセンス。「国内Aライセンス」は公式のレース(複数のクルマが競争をする競技)に出場することができるものです。
身体障害のある方が取得を目指す場合、メディカル審査を受ける必要があり、またAライセンスでは通常の試験以外に自力で緊急脱出が出来ることを証明する必要があるということで、健常者に比べて手間がかかることは否めませんが、着々とレース参戦の夢を叶えている人たちもたくさん存在します。
JAF加盟クラブである「モータースポーツクラブPARAMO」など、ハンディキャップのある人のモータースポーツ参加を推進している団体もあるので、まず相談してみるのもオススメ。
こちらの団体が主催する「PARAMOドリームカップ・ハンディキャップドライバー日本一決定戦Next」は、肢体不自由を事由とした身体障害者手帳を持っているドライバーだけがエントリーできる大会。クローズドクラスなら、JAFのライセンスを持っていない人も参加することが可能です(会員登録が必要)。
現状ではモータースポーツのテレビ放送などは少なく、情報は多いとは言えませんが、一度観戦・参加してみると、意外な面白さが見つかったり、仲間ができたりと、楽しみ方の世界が格段に広がります。今まであまり興味がなかったという皆さんも、ぜひ一度サーキットに出かけてみませんか?