安心して操る楽しさがある
スポーツカーにおいてMT(マニュアルトランスミッション)である価値は少しずつ下がっている印象がある。もはや、パフォーマンスでいえばDCTやATのほうが優れている時代。そこにはMTはドライバーによる差が大きい、という点も影響している。
安定して速く走るにはATであることはマスト。しかし、だからこそMTを上手く操れたときの喜びはひとしおだ。ここで、そんなMTらしい走りが味わえる、メーカー公認チューニングカーともいえる3台をピックアップしてみた。
トヨタ86 GR(496万8000円)
モータースポーツ直系のブランドとしてトヨタが展開している「GR」は、もちろんワークスであるGAZOO Racingに由来するネーミング。ラインナップは究極のスポーツモデルとなる「GRMN」、本格スポーツモデルの「GR」、エントリースポーツモデルの「GR SPORT」と3段階にわけて構成されている。
究極のGRスポーツカーといえるGRMNは6速MTに換装されたマークXと1.8Lスーパーチャージャーエンジンを積んだヴィッツが用意されているが、すでに完売。いまGRラインナップの頂点に立っているのは、この「86 GR」だ。
専用フロントスポイラー、センター出しマフラーに対応した専用リアバンパー、リアに235/45R17サイズのタイヤを履かせるためにプラスされたフェンダーエクステンションといった外観からして、ただ者ではない感を醸し出す。ドアを開ければ、専用に開発されたレカロシートやGR専用の小径ステアリングホイールがドライバーの気持ちを昂らせる。
エンジンは基本的にノーマルで最高出力は152kW(207PS)となっているが、86 GRの特徴はシャシーチューンにある。ザックス社のショックアブソーバに10mmダウンスプリングを組み合わせただけでなく、ステアリングラックとリアサスペンションメンバーにブレースを追加することでシャシー剛性をアップ。
ブレーキは、フロント6ポット、リア4ポットのブレンボ製キャリパーとなり、ローターはドリルドタイプが与えられた。細身のスポークホイールから赤いキャリパーが覗く様は、まさにチューニングカーといったムード満点だ。
ホンダ S660 Modulo X(285万120円)
ホンダの純正アクセサリーを開発しているホンダアクセスは「Modulo(モデューロ)」ブランドにてアルミホイールやサスペンション、エアロパーツといったチューニング関連パーツも展開している。SUPER GTでの活躍や、土屋圭市氏がアドバイザーを務めていることでも知られるブランドだ。
そして、ホンダアクセスの考える理想の走りを実現した市販車が、メーカーの量産ラインで作られるコンプリートカー「Modulo X」。とはいえ、同シリーズの中心はミニバンが多く、純粋なスポーツカーといえるのは、やはり「S660 Modulo X」でキマリだろう。
オリジナルデザインのバンパーや、ガーニーフラップを追加されたアクティブスポイラーといったアピアランスチューンは、四輪の接地性を高める「実効空力」を追求。サスペンションはメーカー製としては珍しい減衰力調整式で、好みに合わせて前後とも5段階に調整できる。
また、ステルスブラックに塗装されたアルミホイールの奥にはドリルドタイプのローターと、耐フェード性にも優れたブレーキパッドを装着。ローターのハット部分が赤くペイントされているのがヤル気を感じさせる。
上品なボルドーレッドをレザーシートやインパネパッドなどにあしらっているのは、いかにもコンプリートカーらしい仕立て。そして、なにより6速MTのシフトノブが磨き上げられたチタン製というのは、ホンダスポーツの伝統を受け継ぐものとしてオーナーの満足度につながるはずだ。
日産 フェアレディZ NISMO(629万3160円)
いまどき珍しい高回転型の自然吸気3.7L V6エンジンをフロントに搭載、リアを駆動するスポーツカーが日産フェアレディZ。ラインナップには、日産ワークスであるNISMOの名を冠したグレードが設定されている。
メーカーが販売するカタログモデルゆえに前後バンパーやリアスポイラーなどを専用デザインとしただけのコンプリート仕様と思いがちだが、さにあらず。V6エンジンは等張フルデュアルマフラー、専用コンピュータ(ECM)でチューニングされ、最高出力261kW(355PS)を発生。
サスペンションも専用に引き締められるが、さらにストラットタワーバー、YAMAHA製パフォーマンスダンパー、メンバーブレース、フロアVバーなどによってシャシー性能もレベルアップ。足元のレイズ製19インチアルミホイール、室内の専用レカロシートを見れば、まさにチューニングカーとしてNISMOが仕上げたことが納得できるだろう。
7速ATも用意されるが、6速MTで乗りこなしたいフェアレディZ NISMO。シフトチェンジにエンジン回転をあわせる「シンクロレブコントロール」が備わっているおかげで、マニュアルトランスミッションの気持ちいい部分を味わえるのもうれしい。