じつは65歳以上の高齢者の事故件数は減っている
高齢ドライバーが悲惨な死亡事故を起こすニュースが日々伝えられている。そうなると「高齢ドライバーの事故が急増している」というムードになりがちだが、はたして事故件数は増えているのだろうか。また、高齢ドライバーの事故を減らすにはどうしたらいいのだろうか。
高齢ドライバーの事故報道があると、いかにも高齢者ばかりが重大交通事故を起こしているかのような風潮になるが、けっしてそういうわけではない。たしかに75歳以上の高齢者が第一当事者(事故に関わった中で過失がもっとも大きな人)となっている事故は決して少ないわけではない。
警察庁の統計データによると平成29年に発生した死亡事故において、人口10万人あたりの発生件数データを見ると75歳以上の高齢者が第一当事者となっている死亡事故は2.04件。数値的には平均よりも高いが、高齢者の事故が突出しているわけではなく、実際には16~19歳の2.38件がもっとも多かったりする。
このデータは原付自転車以上の運転車が対象となるので、未熟なドライバー/ライダーが事故を起こしやすく、それに次いで加齢により様々な能力が衰えてきたドライバー/ライダーが事故を起こしているという。考えてみれば至極当たり前の話だったりもするのだ。
さらに死亡事故だけでなく、交通事故全般についてデータを見てみよう。警察庁の統計データ(東京都における交通事故が対象)によると、高齢者が第一当事者となる交通事故自体は減少。具体的には平成22年には65歳以上の高齢者が起こした交通事故は6979件だったが、平成30年には5860件。16%も減っている。このように「高齢ドライバーの事故が急増」というのは事実ではないのだ。
警察の立場としてはドライバーのマナーアップや安全の啓蒙活動が実を結んだと言いたいところだろうが、おそらく全体的な交通事故の低減には、AEB(衝突被害軽減ブレーキ)やADAS(先進運転支援システム)といった自動車の運転サポートの普及による効果が無視できないレベルで貢献しているだろう。
もちろん、マナーや遵法精神の向上という面も否定はしない。取り締まり罰則が厳しくなったことで、酔っ払い運転をするようなドライバーも減っているし、シートベルト着用率も上がっているからだ。
ただし、交通事故そのものも減っているため、交通事故の第一当事者における高齢者の割合というのは増加。警察庁のデータでいえば、平成22年には高齢ドライバーが交通事故全体に占める割合は12.7%だったが、平成30年は18.0%となっている。
事故減少と高齢化により比率としては増加
傾向として「高齢ドライバーの事故件数は減っているが、他の年齢層が起こす事故がそれ以上のペースで減っているため、高齢者が起こす事故が増えているように見える」といえそうだ。さらに、平成22年にはいわゆる団塊の世代(昭和22~24年生まれ)がギリギリ高齢者に分類されていないが、平成30年には団塊の世代が高齢者に分類される年齢になっている。単純に高齢者の数と比例して事故件数が増えているという単純な話ともいえる。
それでも警察庁のデータからもわかるように75歳以上の高齢ドライバーは死亡事故を起こしやすい傾向にあることも事実。日本の人口構成において、突出している団塊の世代がどんどん高齢化していく。テクノロジーとマナーによって事故は減っているといっても、衰えというリスクを抱えた高齢ドライバーは増えていく可能性が大きいからだ。とくに団塊の世代が75歳を超える2022年には、その対応は社会問題化すると思われる。
高齢ドライバーの事故を減らす特効薬はあるか
では、高齢ドライバーの事故発生率を他の年齢層並みに低減するには、どうしたらいいのだろうか。運転免許証の返納という意見も目立つが、人間には移動権があって、それを侵害するのは難しいという見方もある。
都市部であれば公共交通機関が充実しているので生活にも困らないかもしれないが、たとえば離島では生活が立ち行かなくなることも考えられる。利便性の地域差は埋めきれないのは自明であり、一律に年齢で区切るというのは難しい。現在でも認知症など判断能力に劣るとされれば免許の更新はできないので、一定の能力は担保しているという風にも考えられる。
そもそも高齢者でないから事故を起こさないわけでもない。仮に高齢者から免許証を取り上げても、他の世代の事故発生率が目立ってくるだけともいえるだろう。さらにいえば職業ドライバーの人不足が叫ばれる中で、公共交通機関を利用すればいいというのも乱暴だ。ライドシェアは成長産業のようにいわれているが、そもそもドライバー不足の日本において成長する余地があるとは考えづらい部分もある。
はっきり言えば、交通事故を減らす特効薬というのはない。あるとすれば、誰も運転しないという劇薬くらいだ。誰も運転しない、すなわち完全自動運転が現時点で考えられる解であろう。すでにADAS(運転支援システム)が交通事故を減らすことは実感できている。無人で走行できる自動運転の実現に向けて、法律やインフラの整備、技術開発に注力していくのが事故のない社会への最短ルートではないだろうか。