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世界に1台! 幻の国産スーパーカー『日産R390』が誕生した理由と功績

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TEXT: 原田 了(HARADA Ryo)  PHOTO: 原田了、『Auto Messe Web編集部』

公道を走れるロードゴーイングカーが必要だった

 90年にル・マン24時間レースで日本車として初のポールポジションを奪った日産R90CK。日産の3.5リッターV8ツインターボエンジンを搭載し、シャシーは英ローラ製のレーシングカーだった。レースでは残念ながらル・マン制覇はならず、日産は数年の休止を経た後、新たな参戦プロジェクトを掲げることになる。すべてが注ぎ込まれてゆく次なるマシンがR390だった。

 耐久レースのマシンの主役が世界的に、レースのために開発されたプロトタイプのグループCから市販の高級スポーツカーであるGTへと移行していた当時、ル・マンでもLMP1クラスのプロトタイプカーではなくLM-GT1クラスのGTカーが主役にとって代わることになっていった。

 そこで日産は、当初予定していたプロトタイプカーではなく、GTカーとして参戦するためにクルマのカテゴリー変更に着手。これには具体的な手法があった。ダウアーとポルシェが“共謀”しグループCカーのポルシェ962Cを、GTカーとしてル・マンに参戦させるために1台だけナンバー付きのロードゴーイングモデルを製作したのと同じく、日産もナンバー付きのR390を1台製作したのである。

 これにより97年のル・マン24時間に、R390はLM-GT1クラスから出場することが可能になる。ロードゴーイングのR390は、LM-GT1仕様のレース専用車両、R390をベースに、ル・マンに参戦するためのホモロゲーションモデルとしてワンオフ製作されたものだった、とみることもできるのだ。

 ちなみにR390は97年のル・マンでは2台ともにトラブルでリタイアしたものの、翌98年には星野一義/鈴木亜久里/影山正彦組の3位を筆頭に5位、6位、10位と、参戦した4台が全車揃って入賞を果たしている。

 R390そのものはトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)との共同開発で、かつてTWRが開発していたジャガーXJR-15がベース。エンジンはもちろん、カーボンモノコックの後部に搭載されていたジャガーの6リッターのV12ユニットを、日産のグループCレースで活躍していたた3.5リッターV8の名機、VRH35Lツインターボに換装した。

 一時日産の社内には、このロードモデルを少数ながら販売しようという論もあったようだ。だがバブルもはじけてしまった当時の社会状況では、決してハッピーな結末を迎えることはできなかっただろう。実際には、それ以前に、日産社内の財務状況が悪化し、スーパースポーツカーどころではなかったという一面もあった。メカニズム的にも発展性が限られていた、というのも辛口すぎるかもしれないが…..。

 ともかく、結果的に数台が製作された。(生産というより製作の方がしっくりするだろう)

 そしてR390のロードモデルは現在、国内に残った1台が座間の日産ヘリテイジコレクション、通称“記念庫”に保管され、2台のレーシングモデル、97年の23号車と98年の32号車とともに、静かに余生を送っている。

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  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • 原田 了(HARADA Ryo)
  • ライター。現在の愛車は、SUBARU R1、Honda GB250 クラブマン、Honda Lead 125。クルマに関わる、ありとあらゆることの探訪が趣味。1955年、岡山県倉敷市生まれ。モータースポーツ専門誌の地方通信員として高校時代にレース取材を開始。大学卒業後、就職して同誌の編集部に配属。10年間のサラリーマン生活を経て90年4月からフリーランスに。モータースポーツ関連の執筆に加え、オートキャンプからヒストリックカーイベントまで幅広く取材。現在ではAMWに、主にヒストリー関連コラムを執筆。またライフワークとなった世界中の自動車博物館歴訪を続け、様々な媒体に紹介記事を寄稿している。
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