奥行きが深くて魅力的な1台に仕上がった
――この試作一号車から量産車にたどり着くまでに、譲れなかった部分は?
「それはリトラクタブルライトです。コストもかかるし、重量もかさむんですが、スーパーカーの象徴でしたから。社内でも採用するかしないかでたくさん話し合ったんですが、NBの頃には法規的にNGになってしまったので、NAで採用してもらえて本当に良かったですね」
「ボンネットもスポーツカー的に大きく開けられると、全部のメカニズムが見えて偉観だったんですが、前述の通り、ラインだけ残されてオーソドックスなボンネットになりました」
――インテリアは?
「インテリアは、クレイモデルで作ったものをそのまま型抜きして樹脂で再現したものです。2シーターのライトウェイトスポーツカーを作りたい。それを日本から世界に発信したい、ということでしたから。アメリカには、1950年代からジャガーやMG、トライアンフなどブリテッシュスポーツのオープンカーが輸入され支持されてきました」
「それが1980年代に入って、安全基準や排ガス基準など法規に適用できなくなってきて、需要はあるのにそれに応えるクルマが見当たらない状況だったのです。だからリニューアルしたカタチで、新しい2シーターオープンのライトウェイトスポーツカーを作ろうと呼びかけたんです」
――ウィンドレギュレーターハンドルも個性的で
「1980年代前半のライトウェイトスポーツカーでは、パワーウインドなんて考えられませんでしたから。マツダには山本健一さん(社長)をはじめ、経営陣の中に優秀なエンジニアがいらっしゃった会社だからこそ、こういうクルマを作ることができたんです。とくに山本さんは『自動車文化論』、『感性エンジニアリング』を唱え、作り手の「こうしたい」というものを実現するために、開発チームは大変苦労していました」
「ドライバーが感じたことにどれだけ忠実にクルマが応えるか。これが『感性エンジニアリング』ですね。マツダ独特の発想です。NAロードスターも適当に乗ると走ってくれない。でもドライバーが『俺が走らせないといけない』という気持ちで乗ると、よく走ってくれるんです。そこが面白いところですね」
「つまり乗り手が上手になると、それだけクルマもよく走る。クルマに馴染むにしたがって、どんどん心地のいいクルマ変わっていくわけです。だから奥行きが深くて魅力的。もうひとつ。壊れないというところも付け加えたいですね。私もNAのロードスターに30年乗り続け、41万567kmも乗っていますが、エンジン関係では20万kmのときに交換した電気関係のケーブルと、ピストンリングだけですよ!」
「広島から鹿児島まで日帰りでドライブしたり、京都や大津も日帰り圏内ですね。いまでも夫婦二人で、年に数回ロングドライビングを楽しんでいます。NAロードスターのオーナーさんは、私と同じように、ずっとロードスターを愛し続けてくださっている方が多いので、プランナー冥利に尽きますね」と福田成徳さんは語ってくれた。