沸点の高さだけでなく低温時の流動性も重要
オートバイでは一部ワイヤー式があるが、クルマのブレーキではすべて油圧式を採用している。仕組みは簡単で、ふたつの注射器を管でつないで中に液体で満した場合、片方の注射器を押すともう一方は押されて出てくるが、まさにこれと同じ。ペダルを踏むと、配管内の液体が力を伝えて、各車輪に付いているピストンを押して、ブレーキパッドやシューを押し付けて制動力を得ているわけだ。
ブレーキフルードというのは、配管内の液体のこと。ブレーキオイルと呼ぶ人もいるが、潤滑はせずに油圧伝達が主な役割なので、オイルではなく、フルードと呼ぶのが正しい。このブレーキフルードには規格があって、DOT(ドット)と数字でグレードを表している。フルードの缶に大きく書いてあったりするので見たことがあるだろう。たとえば、DOT3やDOT4といったもの。以前は1や2もあったが、実用性に欠けることから現在は3から5が一般的に使われている。
しかし、DOT5はオートバイのハーレーなどの一部の特殊な車両向けで、一般向けに販売されているのはDOT5.1となる。はっきり言って、DOT5.1は一般道で他のDOT3やDOT4と同じように使えるので、吸湿性が高く劣化しやすいかつてのDOT5とはまったく別モノだ。
ちなみにDOT3〜4、5.1の成分は一般的にはエチレングリコールと呼ばれるものであるのに対して、DOT5のみはシリコンが主成分。やはり他と比べて特殊であることがわかる。
規格内容として数字が大きくなるほど耐熱性(沸点)は高くなる。つまり、教習所でも習った、ブレーキの過熱でフルードが沸騰して泡が配管内に入り込み、タッチがソフトになったり、最悪の場合はブレーキが効かなくなる「ベーパーロック現象」を防止。数値が高いほど発熱量の高い大容量ブレーキ向きといえるだろう。
規格的には何度で沸騰するかを示す、新品状態でのドライ沸点と、経年を想定した3.7パーセント吸湿状態でのウエット沸点があり、DOT5.1へと数値が大きいほど高くなる。
オイル選びは気温も関係する
そしてあまり知られていないのが、フルード選択には気温が関係するということ。フルードの規格には高温と低温の粘度もあって、具体的にはDOT5.1は低温での流動性も高いことから、寒い地域向けでは純正指定されていることがある(北欧のクルマはDOT5.1指定が多い)。具体的な低温粘度(マイナス40℃)は、DOT5.1が900cSt以上、DOT4は1800cSt以上、DOT3では1500cSt以上。数値が大きい方が粘度が高く、流動性が悪いわけだ。日本でここまでの低温になる地域はほとんどないが、瞬間的にフルードが移動するABSの作動に影響を与える可能性はある。
極端な表現をすれば、どんなクルマでも沸点が高く、低温時の流動性に優れたDOT5.1を使用していれば問題はないのだが、DOT3と比べるとやはり高価だ。
「ブレーキフルード選びの目安は、通勤や街乗りする軽自動車やコンパクトカーならDOT3、一般的なセダンやミニバンはDOT4、スポーツセダンや輸入車にはDOT5.1でしょう。ただし、北海道のように気温が極端に下がる地域では、冬季にABSやスタビリティコントロールが正確に作動させられるDOT5.1がオススメです」とブレーキパーツメーカー・ディクセル広報の金谷さんは語る。
また、DOT5.1は、経年劣化したことを想定したウェット沸点が180℃以上と、DOT4の155℃以上やDOT3の140℃以上より高い性能を持っている。ブレーキを酷使するような山間部のユーザーで車重の重いクルマに乗るユーザーならDOT5.1のほうが安心かもしれない。
ちなみにスーパーDOT4というのを最近目にするが、これは正式な規格ではなく、DOT5.1の沸点を確保したDOT4のこと(粘度はそのまま)をスーパーDOT4と呼ぶ。つまり、こちらも低温粘度は高めとなる。
ブレーキというのはパッドやローターに目が行きがちだが、フルードについても使用環境や車種などから、最適なものを選びたい。また、ブレーキフルードはエンジンオイルのように潤滑して内部を洗浄するものではないので見た目はあまり汚れない。だが、経年劣化は確実に進行しているので車検毎に必ず交換することを強く推奨する。