実用化にこぎつけたマツダの熱き思い
日本にはたくさんの名エンジンがたくさんある。日産だとR32〜34型スカイラインGT-Rに搭載されたRB26型エンジンの存在が大きく、トヨタだとマークIIや70スープラなどドリフト好きに名機といわれた1J型や2J型といったエンジンを抜きにしては語れない。今回は世界で唯一量産化に成功した、マツダが採用した「ロータリーエンジン」について解説しよう。
クランク機構を使って直線運動によって生まれた動力を回転運動に変えるレシプロエンジンに対し、ローターの回転運動だけでパワーを生み出すのがロータリーエンジン。ドイツのフェリクス・ヴァンケルが発明し、1950年代にNSU社とWankel社との共同研究により開発にこぎつけた。
騒音や振動が少なく、軽量コンパクトでハイパワー。容積で比べるとレシプロの70%の大きさで、本体重量も非常に軽い。60年代に「夢のエンジン」として注目されたが、実質的に量産化、実用化にこぎつけたのは世界でもマツダだけといっていい。
ロータリーエンジンは熱効率の悪さ、燃焼効率の悪さ(=燃費の悪さ)、冷却損失の大きさ、耐久性の問題などの短所もあるが、スポーツカーやレーシングカー用のエンジンとしては、優れた利点を持っている。そして、エンジンそのものがコンパクトなため、クルマのデザインの自由度も高く、世界初の量産2ローター・ロータリーエンジン搭載車=コスモスポーツをはじめ、歴代RX-7やRX-8といった個性的なスタイルを持ったクルマを生み出している。
またシンプルな構造で部品点数が少なく、基本的にポート加工だけでハイパワー化が可能。安価にチューニング出来るのも魅力で、RE雨宮を筆頭に多くの名チューナー、プライベートチューナーから支持されてきた。
さらに、モータースポーツでは、サバンナRX-3のツーリングカーレース通算100勝を達成。無敗神話を誇ったスカイラインGT-Rの50連勝を阻止し、その後、4年間無敗の大記録を達成している。
そして、フランスで開催されるル・マン24時間耐久レースへの挑戦。国産車で初めてル・マンを制した「マツダ787B」の搭載エンジンもロータリーの「R26B」。市販の13Bエンジンのローター&ハウジングの寸法を生かした「B」サイズのエンジンで、簡単にいえば2ローターの13Bを2倍の4ローター化したのが「R26B」だ。
ノントラブルで24時間を走りきり、ベンツやジャガーの強豪を抑え優勝。ドライバーからはロータリーエンジンは振動が少なく快適だったと好評で、耐久レースで重要な疲労感の少なさも強味としていた。
また、耐久レースといえば1968年にコスモスポーツでチャレンジした、ニュルブルクリンク24時間耐久レースでも4位入賞。アメリカでも1979年にRX-7でデイトナ24時間に参戦し、IMSAGT-Uクラスで初参戦・初優勝している。このIMSAでは、5年連続マニュファクチャラーズチャンピオン(通算67勝)という大記録も達成した。
こうしたマツダの2ローターのロータリーエンジンは市販車でも、13Bターボを積んだFC3S型(2代目)サバンナRX-7が185馬力から215馬力、FD3S型RX-7が初期型の255馬力から最終的には280馬力へ向上。自然吸気となったRX-8では250馬力まで改良進化を遂げ、環境性能などの問題をクリアしながら可能性を広げてきた。
ロータリーエンジン自体が唯一無二のマツダのエンジンなので、他のエンジンとは直接比較することができない。しかし、利点も多く、日本の技術力の高さを証明するなど、輝かしい実績を誇るという意味で名機の仲間入りを果たしているといってもいいはずだ。