そもそも特別仕様車とは何?
特別仕様車は文字通り「特別」な仕様だから、意味を本来通りに解釈すれば、チューニングされたエンジンや足まわりを搭載したクルマだろう。ところが実際には、中級グレードをベースに、オプション装備や上級グレードの装備をプラスした特別仕様車が多い。加わる装備の割に価格上昇を抑えるので、これらの特別仕様車は買い得とか割安と表現される。
こういった特別仕様車は、売れ行きが下がったり、強力なライバル車が発売される前後に設定されることが多い。売れ行きが心配になっているから、買い得な特別仕様車をリリースして販売面のテコ入れを図るわけだ。いい換えれば、売れ行きが好調な時には、割安な特別仕様車はほとんど用意されない。新しいボディカラーを用意するファッション指向の特別仕様車などに限られる。
じつはモデルチェンジ前がお買い得
販売の主力になる車種の場合、発売から3年以上を経過したり、フルモデルチェンジが近づくと、必ずといって良いほど価格を抑えた特別仕様車を用意する。既存のグレードの生産を早期に終えて、最後の半年ほどは、実質的に特別仕様車のみの販売になるケースも多い。
このような特別仕様車の典型が、タントの「VSシリーズ」。タントは2019年7月頃にフルモデルチェンジを受ける予定で、2018年12月には、標準ボディのX・VS・SAIII、カスタムのRSとXにもトップエディションVS・SAIIIを加えた。
この特別仕様車のなかでX・VS・SAIIIでは、X・SAIIIに、LEDヘッドランプ、14インチアルミホイール、サイドエアバッグ、右側スライドドアの電動機能(左側はX・SAIIIにも標準装着)などを加えた。プラスされた装備を価格に換算すると合計16万円相当だが、価格の上乗せは6万4800円に抑えられている。
従ってX・SAIIIは既存のグレードよりも約10万円割安。購入時には、このほかに通常の値引きも可能で、残価設定ローンの金利を1.9%に抑えるなどの販売促進も行っている。
一方、同じダイハツの特別仕様車でも、ウェイクGターボリミテッドSAIIIは価格的に安くない。GターボSAIIIに、ナビ装着用アップグレードパック、パーソナルランプを加え、アルミホイールも14インチから15インチに拡大。加わった装備の価格換算額は約7万円で、価格の上乗せは4万3200円だ。3万円弱は割安だが、決して買い得な特別仕様車とはいえないだろう。
このように特別仕様車の買い得感はさまざまだから、オプション価格も参考に、プラスされた装備と価格の上乗せ額を見比べて判断したいものだ。そしてもうひとつ、加えられた特別装備が自分にとって必要か否かを考えることも重要。装備が割安に追加されても、不要な内容ならば意味がないだろう。多くのユーザーが特別装備の内容を見ると、必要な品目と不要なものが混ざり合っていると思う。この時には、買い得感の計算を自分にとって必要な装備だけで行い、選ぶ価値があるかを判断したい。
なおオプションや上級グレードの装備を加えた特別仕様車は、数年後の売却額が際立って高まることはない。新車ディーラーなどの業者がクルマを買い取る時の査定は、「型式」を基準に行われ、特別仕様車の型式はベースグレードに準じるからだ。そうなると中級グレードをベースにした特別仕様車の査定額は、同様の装備を採用した上級グレードを下まわることが多い。
しかし走行性能を高めたり、外観をドレスアップしたスポーツ指向の特別仕様車は、車種によっては圧倒的な高価格で売却できる。例えばR34型日産スカイラインGT-R “VスペックIIニュル”は、発売から約17年を経過しながら、中古車市場では1000万円を超える価格で販売。こうなるとユーザーが業者に売却する時の金額も高まる。
また、インプレッサWRX・STIの”S206NBRチャレンジパッケージ”も、中古車市場に出まわると、希少性もあって500万円近い価格で取引されている。
要は熱烈なファンの気持ちに刺さる特別仕様車は、中古車市場でも高価格で取り引きされ、ユーザーが売却する時の金額も高まるわけだ。本来の「特別な仕様」は、値落ちが少ないともいえるだろう。