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障がい者レーサー3人を起用するSRT41チーム、ル・マン24時間レース参戦を目指す理由

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TEXT: 青山義明(AOYAMA Yoshiaki)  PHOTO: 青山義明

障がい者のモータースポーツ参加を推進

 ル・マン24時間耐久レースが行われる、フランス・サルトサーキットで併催されている「ロード・トゥ・ルマン(RTLM)」のレース2が、6月15日(土)に開催。車いすのレーシングドライバー・青木拓磨選手が所属する障がい者ドライバーだけで構成するSRT41チームは、予選37番手からスタートし無事完走、39位でフィニッシュした。

「RTLM」は、その名の通り、ル・マン24時間レースへの参戦を目指すチームが挑戦するステップアップ・イベント。ル・マン本戦が行われるサルト・サーキットを走れる数少ない機会の一つでもあることから多くのエントリーを集めている。

 この「RTLM」に今回挑戦をしたのが、フレデリック・ソーセ率いるSRT41チームに昨年から合流している青木拓磨選手である。青木拓磨選手は幼少期からバイクレースをスタートさせ、世界最高峰といわれるWGP(FIM世界ロードレース選手権)に挑戦。しかし1998年シーズン前のテストで転倒し、脊髄を損傷。下半身不随の車いす生活を送ることとなってしまう。しかし、その後、活動を4輪レース及びラリーにシフトし、パリダカなどにも挑戦するなど積極的に各種レースに参戦している。

 現在、目指しているのが、ル・マン24時間耐久レースへの参戦である。その活動をしていく中で、知り合ったのがこのソーセ代表。彼は四肢切断という事故を乗り越え2016年にル・マン本戦に出場。その活動をもっと広げていこうということで立ち上げたプロジェクトが、身体障がい者だけのチームでル・マン24時間レースを狙うというものだった。

 そのプロジェクトに選定されたのが、ベルギー人のナイジェル・ベイリー選手(下半身不随)、フランス人のスヌーシー・ベン・ムーサ選手(左腕切断)、そして青木拓磨選手という3人だ。このチームで昨年からル・マンに向けて活動をスタートさせている。

 昨年はフランス国内の耐久レースシリーズである「VdeV(ベドゥベ)耐久選手権」、そして今年はウルティメイトカップというシリーズに参戦している。その活動にプラスして、今年はル・マン本戦と同じコースを走ることができる「RTLM」に参戦を果たしたわけだ。

「RTLM」は55分間のレースが2回開催される。すでにル・マン24時間レースを見据えて3人のドライバーラインナップさせているSRT41は、ドライバー交替の際の乗り換え時間を短縮するべく、スヌーシー選手と青木拓磨選手でレース1を、そしてスヌーシー選手とナイジェル選手でレース2を戦うことにした。

 すでに6月13日にレース1が行われており、「SRT41」の84号車は、最後尾スタートから36位へと順位を大きく上げてレースを終えている。そのレース1での走行が評価されて、当初はレース2も最後尾からのスタートと言い渡されていたのだが、予選結果の39番グリッドからとなった。

 レース2もスタートドライバーは義手ドライバーのスヌーシー選手が務め、予定通りの周回でドライバー交替を行う。しかし、ここでの乗り換えに少し手間取ってしまい、29番手まで上がっていた順位は41番手まで下がってしまったものの、後半のスティントを担当したナイジェル選手がプッシュを続け無事に39位でチェッカーを受けた。

 スヌーシー選手はレース後「今日もしっかりとレースを楽しめた。ただ、ほかの車両との接触などでナイジェルにマシンを渡せなくなってはいけないと思って少し緊張はしていたけれど。また来年この場に必ず戻ってきて、24時間を走り切りたい」とコメント。

 ナイジェル選手は「素晴らしい体験だった。今日はスヌーシーと2人で、リスクは取らないようにしながらもレース1より少しプッシュしようって話をしていた。まだまだ足りないものも多いけれど、これからさらに鍛錬を積んで、来年の24時間レースに備えていきたい」と抱負を述べた。

スタートラインに着けたことも重要

 レース後、フレデリック・ソーセ代表による記者会見も開かれた。そこに2日前に走行した青木拓磨選手も呼ばれ、トヨタのバックアップを受けているパラリンピックTOKYO 2020に出場予定の選手との交流の機会も設けられた。その場にはジャン・トッドFIA会長、ASOのピエール・フィオン会長も合流し、一緒に写真に納まった。

 青木拓磨選手は今回のル・マンでのレースについて「やはり世界三大レースの一つだと思いました。今回参戦したのは前座レースでしたが、ACOフィオン会長やFIAのトッド会長と会って話をしたりすることもできて、よかったです」と語る。

 さらに「ル・マン24時間レースに参戦するみんながいる前で、RTLMに出て完走できたということがすごく大きな一歩だったと思う。今までライセンスが発給されない、スタートラインにすら着かせてくれなかったんだから。レースができた、そして完走できたってことがものすごく意味のある事なんだろうなと思う」

「そんな障がいだらけのレースという場で、僕よりも全然重い障害を持ったチームオーナーがチャレンジしている。あきらめることは簡単ですが、障害を持っている方はもちろんだれでも、ハードがそろえば参戦できるということが証明できたと思います。僕自身の活動として、日本におけるレースに対しても、同じようにもっと踏み込んでいきたいし、誰でもレースに参戦できる体制を築いていきたい」と青木選手は語る。

 またレースに対しては「ちょっとスピードが足りなかった。『我々のレース活動を証明するために絶対にクラッシュするな』と言われて、とてつもないプレッシャーだった。だからそんな状態で行けなかった。完走しただけだけど、コーナーはもちろんアンジュレーションとか、コースがわかったのは良かった」ととても収穫になったという。

 青木拓磨選手と、SRT41のチームは、今月末、つまり2週間後のイタリアでのウルティメイトカップ出場に向けて早くも気持ちを入れ替えている。

 ちなみにSRT41のチームキャラクターは3本足のヤモリだ。「足がなくなってはいつくばってでも前に進んでやる」というソーセ代表とチームの心意気を意味している。このヤモリのように粘り強く今シーズンを戦い切り、来年のル・マン本戦出場に向けて、彼らの挑戦はまだまだ続く。

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