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高級車に採用されたボンネット上のフードマスコットはなぜ消えた?

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TEXT: 片岡英明  PHOTO: Auto Messe Web編集部/ベントレー

エンジンの状態を図る機能パーツが進化した

 第二次世界大戦より前に生産されたクルマには、ボンネットの先端に立体的なエンブレムが装着されている。これはフードマスコットとかフードクレストマークと呼ばれるものだ。自動車メーカーのシンボルとなるものやマークを立体化し、ボンネットの先端に付けている。

 戦後も欧米の自動車メーカーはフードマスコットにこだわり続けた。日本でも日産のセドリック、グロリア、三菱の2代目デボネアや後継のプラウディアなどの高級車には、21世紀初頭までボンネットの先端にエンブレムを付けていた。

 フードマスコットは高級車の証であり、ステータスだったのである。だから目立つフードマスコットをラジエターグリルの上に掲げた。クラシックマスクを得意とするミツオカでも、ガリューなどに好んでフードマスコットを装着している。

 20世紀初頭のクルマは、ラジエターの上に金属製の筒を付けていた。これはラジエター内の水温や水の流れを知るために取り付けられたもの。エンジンが温まっているか、冷えているか筒に触れて確認し、暖気が済んでから走り出したというわけだ。

 このようにラジエターキャップの筒は、エンジンの調子や状態を確認して、安全に走らせるための実用装備だったわけだ。このラジエターキャップの上に装飾品を取り付けたのがフードマスコットの原型。次第にフロントグリルの上に装飾を施した金属のパーツを取り付けるようになり、多くの高級車に広まった。

 ドラージュやブガッティなどの高級車はフードマスコットのデザインに徹底してこだわり、鑑賞にも耐えられるものにしている。その材質も、金属だけでない。クリスタルガラスで鳥などを彫った芸術作品のようなものも登場。凝ったデザインのフードマスコットを付けた高級車に乗る、これがステータスだったのだ。

 フードマスコットの代表はロールスロイス。今から110年ほど前の20世紀初頭に、シルバーゴーストに「スピリット・オブ・エクスタシー」と名付けた女性のマスコットを付ている。これは自動車雑誌の編集者が知り合いの彫刻家に依頼したものだったが、ロールスロイスの首脳陣が気に入り、正式なマスコットとして採用するようになった。

 また、ロールスロイスと並ぶ高級車のベントレーには「ウイングドB」と呼ばれる羽根付きのエンブレムが装備されている。これはベントレーの創始者、ウォルター・オーウェン・ベントレーの頭文字である「B」をあしらったものだ。

 走りのいい高級車を造ることで知られるジャガーのノーズ先端に付くフードマスコットも、多くの人を魅了している。有名なのは、F・ゴードン・クロスビーがデザインした躍動感あふれるジャガーの立像だ。人々から「ザ・リーピング・ジャガー」、または「リーピング・キャット」の名で親しまれ、一世を風靡した。だが、1970年代にアメリカの安全基準が厳しくなったため、ボンネット上にジャガーの顔を描いたエンブレムを張り付けるようになっている。

 ドイツのメルセデス・ベンツもボンネットの上に「スリーポインテッドスター」を誇らしげに掲げた。これは陸、海、空の王者になることを願って装着されたものだ。また、マイバッハにはマイバッハ創業者のウィルヘルム・マイバッハと息子の会社名である「マイバッハ・モトーレンバウ社」の頭文字「M」をかたどったエンブレムを取り付けた。

 日本でも戦前のダットサンにはウサギのエンブレムが装着されている。これは「脱兎のごとく」と「ダットサン」のネーミングを掛け合わせ、採用された。戦前のトヨタ車には漢字の「豊田」をあしらったエンブレムが付く。

 戦後もトヨタは初代クラウンにフードマスコットを採用している。だが、2代目からは「王冠」をモチーフにしたエンブレムをフロントグリルのなかに張り込んだ。ただし、上級モデルのマジェスタにはフードマスコットが用意されていた。

 日産も規制される2004年まで、セドリックとグロリアに立体的なエンブレムを設定している。1960年に誕生したセドリックは、日産の頭文字である「N」をモチーフにしたデザイン、グロリアは羽を広げた鶴がモチーフだ。

 V型6気筒エンジン搭載のY30系セドリックとグロリアにはゴールドのフードマスコットや発光体を内蔵したイルミネーション付きのフードマスコットが設定されていた。また、シーマにはギリシャの国花である「アカンサス」という植物の葉をモチーフにした豪華なエンブレムが装着されている。これは彫刻家の二田原英二氏がデザインしたものだ。原価もかなり高い。

 だが、このフードマスコットが衝突したときに歩行者やクルマを傷つけるということで、取り外したり、グリルの中に組み込むクルマが増えてきた。決定的となったのは、21世紀を前に世界中の自動車メーカーが安全性向上のために国際統一規格を設けようと団結したことである。

 これを受け、日本の国交相や警察庁は、2001年6月に道路運送車両法の保安基準などを改正した。国際基準となる「乗用車の外部突起(協定規則第26号)」が導入され、これ以降、新型車の多くはフードマスコットを廃している。最近はフロントグリルに組み込むクルマが多い。が、安全性を考慮して、衝撃を受けると外れたり、走行中は収納されるマスコットも登場した。装飾を超えた美的な価値、芸術品としての魅力があるのが、よき時代のフードマスコットだ。

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