クライアントの要望や安全確保に応える
大阪で開催されたG20サミットでVIPの要人を乗せた高級車を運転する「ショーファー」の役割が重要視されました。しかし、ショーファーのことは、なんとはなしに意味は分かっていても正確な役割についてはあまり知られていません。そこで、どのようなことをする仕事なのかをご紹介しましょう。
ドライバーとショーファーの大きな違い
ショーファー(Chauffeur)とは「お抱え運転手」の意味。以前は使用人として屋敷に住み込みで働き、馬車や自動車の運転、馬の世話、クルマの整備といった仕事を全て引き受け、時には秘書の仕事を行うなど専門職の名前でもあった。
今日におけるショーファーの条件とは、最初に挙げられるのが外国語に精通していること。次に地元地理に詳しいこと。更に、礼儀正しく、手入れが行き届いた服装をしていること。そして、最後は非の打ちどころのない推薦書を持っていること。”運転席の執事”が持つべき全ての知識やノウハウは、特に紳士の国・英国ロンドンのブリティッシュ・ショーファー・ギルド(英国ショーファー協会)のコースで習得する事が出来ると言われている。
単なるドライバーと違って、真のショーファーはクライアントをA地点からB地点に運ぶというだけではなく、思慮深く行動し、執事のように丁寧で礼儀正しく、信頼できる人なのだ。
あらゆる事態を想定して行動する
ショーファーの服装を語らずに、その役割は語れない。通常はネイビーブルー、結婚式には灰色、葬式には黒のスーツを着用。ネクタイ、ソックス、手袋、靴においても黒が最適と言われている。そして、常に白の長袖ワイシャツを着用し、皺はアイロンで完全に伸ばす。シャツの袖は非常に暑い夏だけ、例外的にたくし上げてもいい。もちろん、入れ墨は問題外、イヤリングや他の個人的な装飾品もタブーとされる。
唯一の例外は結婚指輪と腕時計。何故なら、アポイント時間の厳守は必須だからだ。停電という事もあり、時計は絶対に忘れてはならない。帽子は、曲げた親指で帽子のつばと鼻先の正しい距離を測り、正しく帽子を被る。また、ショーファーが帽子を被ったまま入れる建物は空港内である。つまり、クライアントが簡単に”彼”を見つけやすいからだ。
そして、ショーファーは常に目的地への代替えルートを考えている。特に上演開始後は入場禁止となるVIP会議場や劇場、オペラ・シアターが目的地である場合、時間厳守は非常に重要だ。
優秀なショーファーは常に先を見越し、確認を怠らない。「旦那様、チケットはお持ちですか」と尋ねる。そして、彼はいつも主人のお気に入りの新聞や雑誌を持っている。また、ショーファーのカバンの中には懐中電灯、運転手と主人の着替え等、予想できるものは揃えている。それだけではない。靴紐、アスピリン・アレルギー患者用の頭痛薬、CDまでも。このCDは長い待ち時間にご主人の為に用意するもの。正に「備えあれば憂いなし」である。
真のショーファーはあらゆる事態を想定し、適切に対応する覚悟が出来ているのだ。
最重要な安全には万全な知識を持つ
ショーファーは安全について万全な知識を持ち、見知らぬ人には決して窓を開けないなど、用意周到に対応して行動する。また、誘拐の98%はクルマから乗り降りする時に起こると言われているが、ショーファーはクルマから降りた後、社外のどの位置に移動すべきなのだろう。
それは、クライアントが降車する際に立つ位置と同じ。つまり、ショーファーは「かかとを後輪のそばに置いて」立つ事である。そうすれば、開閉をチェックし、ドアに邪魔される事なく、クライアントが安全にクルマから降りるのを補助する事ができるわけだ。もし、何か危険な兆候があれば、ただちに対応する事が可能。つまり、誘拐犯やパパラッチが待ち伏せてしている時など、即座にクライアントを車内に押し戻せることができるのだ。
もちろん、クルマを停止させると前を回ってクルマがしっかり停止しているか確認し、リアドアを開けて後ろ向きに立って後方から迫る交通に注意を払う。ドアを閉める時は必ず最後まで手を添える。また、頻繁にルートを変える安全法則を一貫して尊守している。施錠しないままの置きっぱなしや、無人状態も決してしない。
仕事内容はクライアント次第で多岐に亘る
真のショーファーは多彩な才能の持ち主でなくてはならない。運転手だけでなく、メッセンジャー、観光ガイド、守衛、エンターテイナー、ガーディアンでもあるのだ。そして、鋭い方向感覚を備えていなければならない。住み込みのショーファーは、主人の邸宅の鍵はもちろん、主人の会社について詳細な情報を持つが守秘義務を尊守。有能なショーファーは、抜群の判断力を持ち臨機応変に行動するのだ。
そして、主人から質問された時のみに口を開く。ショーファーは、主人の移動中の完璧な従者であり、長時間待たされている時でも車内で居眠りはしない。クルマの手入れは余念なく次の出発を待つ間、ピカピカに磨いておく。つまり、常に従者であり、携帯で呼び出されれば、即、動く用意が出来ている。
ショーファーは誇りを持っている
爵位を持つ貴族専用ショーファーともなれば大変である。主人だけでなく、他の家族のニーズにも応えなければならない。例えば、女主人をフィットネスクラブに、またご子息を学校へ送り迎えする。ベテラン・ショーファーともなれば「クライアントを選ぶ権利はある」と言える程、誇りを持っているものだ。
もし、クライアントがスピード違反をする様にそそのかしたら、即時に彼の依頼を絶つ。彼は免許証を失いかねない様な危険な行為まではしない。免許証が無くては、自分の人生でなりたかった職業に就くことができないからだ。つまり、「ショーファーという職業に」。
なお、リムジンなどショーファーが運転するクルマのことを「ショーファーカー」もしくは「ショーファードリブン」と称する。
(参考文献及び写真;英国ショーファー協会)