WECチャンピオンが大きなプラスに
2018-2019スーパーシーズンと呼ばれた1年以上にわたるWEC(世界耐久選手権)は、「トヨタTS050ハイブリッド」による勝利で幕を閉じました。そして2019-2020シーズンの開幕戦であるイギリス・シルバーストーンでの戦い(8月30日~9月1日)に向けて着々と準備が進んでいます。ちなみに2019-2020シーズンの第2戦は、日本の富士スピードウェイ(10月4日~10月6日)、シルバーストーンは4時間耐久、富士スピードウェイは6時間耐久となっています。
最初で最後のスーパーシーズン勝者
2019-2020シーズンはシルバーストーンで開幕。2020年6月のフランス・サルテトサーキットの24時間耐久、つまりル・マンで閉幕するというスケジュールになっています。最終戦をル・マンにするために、2018-2019はワンシーズンのなかにル・マン24時間耐久が2度あるという変則的なスーパーシーズンになったのです。
スーパーシーズンのスケジュールは変則的なものですから、推測ですが今後はひとつのシーズンでル・マン24時間耐久レースが2回あることはないでしょう。そして、トヨタGAZOOレーシングは、その2回ともル・マンでワンツーフィニッシュ達成。シリーズチャンピオンの座も得ており、モータースポーツ史に残るエピソードとなるでしょう。
ライバル不在だったとして記録は残り続ける
とはいえ、2018-2019スーパーシーズンでWEC最高峰のLMP1クラスに参戦したワークスチームはトヨタGAZOOレーシングのみ。2017年までのライバルだったアウディやポルシェはその姿を消していました。傍から見ればライバル不在のなかで完走すれば勝てるという状況でしたが、もちろんライバルはいるうえ、他のクラスに後れを取ってしまっては総合優勝できません。
実際、2017年のル・マン24時間耐久ではワークス勢が軒並みトラブルに見舞われ、LMP2クラスのジャッキーチェンDCレーシングがあわや総合優勝といったシチュエーションにもなったのも事実。LMP1唯一のワークスチームだからといって、のんびりと完走狙いで走るというわけにはいきません。
その中で、確実に2台のマシンを完走させ、ル・マン24時間耐久で2年連続のワンツーフィニッシュを実現したことは間違いなく記録と記憶に残るもの。ライバル不在だったと指摘されるかもしれませんが、ル・マン24時間耐久で勝利したことのあるメーカー(ブランド)という事実は揺るぎません。これはブランディングにとっては非常に重要な“ファクト”になるでしょう。
アロンソを勝たせるという課題をクリアした
さらにF1ドライバーのレジェンド、フェルナンド・アロンソ選手が2度のル・マン勝利ドライバーに名を連ねていることもモータースポーツ史において重要になる可能性を秘めています。F1ドライバーとしてモナコグランプリで勝利したことのあるアロンソ選手は、世界三大レースと呼ばれる「モナコ」、「ル・マン」、「インディ500(アメリカ)」を制することを目標に掲げています。
アロンソ選手がインディ500で勝てるかどうかは、まだわかりませんが、世界三大レースで勝利することになれば、トヨタのワークスドライバーであったという事実は、これまた歴史に残ることでしょう。じつは、アロンソ選手はモナコ2勝、ル・マン2勝を獲得。インディ500で複数勝利というのは難しいでしょうが、世界三大レースのいずれでも複数回の勝利を挙げることになれば、史上初の大記録になること間違いありません。
日本人初のWECチャンピオンも生み出した
また、ル・マン24時間耐久で連覇したドライバーには日本の中嶋一貴選手も含まれています。ル・マン24時間耐久で総合優勝した日本人選手は過去にも存在していますが、2度の勝利を挙げたのは中嶋一貴だけ。さらにシリーズチャンピオンの栄冠にも輝いています。
2016年のル・マン24時間耐久において、トップを走りながら残り3分でマシントラブルが起き、中嶋一貴選手が無線で伝えてきた「ノーパワー」という悲痛な叫びは、でル・マンの怖さを象徴する場面のひとつとなっています。
その中嶋一貴選手がリベンジを果たし、シリーズチャンピオンに輝いたというのは、すばらしいストーリーといえます。そして、チャンピオンという事実もまたモータースポーツの歴史に残るわけです。
GRスーパースポーツのブランド価値を高めた
このように、将来においてモータースポーツ史を振り返ったときに、トヨタのル・マン連覇というのは折に触れて話題になると考えられます。2年連続でワンツーフィニッシュという事実は揺らぎません。トヨタGAZOOレーシングでは、WECワークスマシン「TS050ハイブリッド」のテクノロジーを受け継いだスーパースポーツカーを開発中であることを明言していますが、そのスーパースポーツはル・マン連覇のテクノロジーから生まれたことになります。
24時間をレーシングスピードで走り続けられることを証明したテクノロジーがバックボーンにあるといえます。そうした謳い文句が使えるブランドは稀有な存在。新型スープラに「GR」を入っていることからも想像できるように、これから「GAZOO Racing」はトヨタ第三のブランドとなる可能性は高い。そして、「GR」というブランドにおいてWECチャンピオンという事実が大きなプラスとなるようブランディングできれば、ル・マンでの勝利がより大きな価値となることは間違いないでしょう。