重心が低いと走りが良くなる
いまや、日本メーカーのミニバンはほとんどが「低床化」しているといっても過言ではない。Mクラスと呼ばれるカテゴリーは路面から床までの高さが40cmを切っていることは珍しくないし、フロアが高くなりがちなスライドドア車であってもトヨタ・シエンタの後席フロア高は33cm(FF)と、セダンのようなヒンジドア車よりも低いくらいだ。
このように低床ミニバンが増えているのは、ミニバンがファミリーカーとして幅広い年齢層のパッセンジャーを受け止めるようになっているからだ。三世代同居ファミリーであれば、孫から祖父祖母世代までが一台に乗り込むことも珍しくない。
床が低くて高齢者も乗りやすい
特に背の低い子供や足腰の弱い高齢者の乗降性は、ダイレクトに商品性を左右する。そのため低床化や補助ステップのオプション設定などが進んでいるのも事実。日本でミニバンが生まれた頃は商用1BOXプラットフォームをベースとしていたため、子供がクルマに乗り込むには高いフロアによじ登るといった印象もあったが、いまやそうしたシーンは見かけない。
また、ボディサイズ(全高)を変えずに低床化を進めることは、室内高の確保に繋がる。ミニバンのファミリーユースでは、子供の着替えスペースとしての役割も求められるが、室内高があれば着替えやすいのは言うまでもない。
このように室内スペースの余裕は乳児のおむつ交換など、保護者の立場からもメリットが大きい。低床にできるのならば全高を低くすればいいと思うかもしれないが、室内は高いほどありがたいと感じるユーザー層も確実に存在しているのだ。
重心が低いから走りが楽しめる
低床化はシートの取り付け位置も低くなるためクルマ全体の重心高が下がる。背の高いミニバンであっても重心が低ければコーナリング時の安定感は増すし、ステアリング操作へのリニアリティも高まる。つまり、ドライバーにとっては走りを楽しめるキャラクターを感じることができるわけだ。さらに重心が低ければロールの動きも小さくなるため、乗員が揺られることも減り、クルマ酔いしにくいメリットもある。
逆にデメリットとしては、床下に収める駆動系や燃料系、排気系といった部品のレイアウトが難しくなること。とはいえ、自動車メーカーのエンジニアが苦労する部分ではあるが、ユーザーにとっては直接的なデメリットではない。作り手は大変な思いをしているが、ユーザーには嬉しいことばかりなのがミニバンの低床化なのだ。