GT-Rには一級品のボディがある
筆者は当初、水野氏から田村氏に責任者が変わった際に「日産GT-Rは普通のクルマになった」と感じたこともある。なぜならば、ある意味独善的ともいえるワンマン体制でGT-Rを手がけてきた水野氏に対して、田村氏は開発ドライバーに、GT-R第二世代の立役者でもある加藤博義氏を復活させるなどして、いわゆる通常の自動車開発のチームで臨む姿勢をみせたからだ。
つまり独善的な体制だからこそ強烈な個性を放っていたGT-Rが、いわゆる常識的な体制となって毒が抜けたようにも感じたからだった。
しかしながらその後、田村氏の率いるGT-R開発チームは、2017年モデルでもGT-Rをさらにブラッシュアップし、大幅な進化を果たしてみせた。既にこの時点で登場から10年が経っていたにも関わらず、様々な取り組みを行なったGT-Rは、常に現役として一級のスーパースポーツであり続けていた。
そうして今回、ドイツのベルリンでGT-Rニスモの2020年モデルを試乗。改めてGT-Rの止まない進化ぶりを体感したわけだ。
試乗会で田村氏に、今回GT-Rニスモに触れて、改めてこれほど進化していることに驚いたことを伝えると、田村氏の口からはこんな言葉が放たれた。
「いまだにGT-Rが進化し続けられるのは、水野さんが開発したこのボディがあるからこそ。我々としても、開発を行なう中で、そこに気づかされるのです。いまから12年以上前にこの基本骨格が開発されたことを考えるといかに凄いことかを感じ、みんなが水野さんをリスペクトしています」
登場から12年が経ったクルマは、当然ながらそれよりも前から開発されているわけで、そう考えると12年以上前の思想や哲学が、現在の高性能の基礎になっているということでもある。
もちろん、そんな部分に気づいて進化させることができるのは、田村氏が2013年にGT-Rを引き継いで、深い愛でR35GT-Rを活かしていくことを常に考えてきたからでもある。