備えと心得があれば被害を最小限にできる
夏休み、お盆の風物詩といえば高速道路の渋滞。ただでさえげんなりしてしまう時期だが、普段の整備が甘かったり、年式なりにくたびれたクルマでの長距離ドライブというのは思わぬトラブルにつながってしまうことがある。それでもトラブル発生時の対処法を頭に入れておけば、問題や被害を最小限に食い止めて対応できることだろう。
三角表示板
オレンジがかった赤色の板を三角形状に組み立てて、その先にトラブルを起こしたクルマが停まっていることを後続車に知らせるのが「三角表示板」の役割。クルマに積んでおくことは義務ではないが、高速道路上でやむを得ず停車するときには(路肩も含む)、適切に三角表示板を設置することは義務となっている(道路交通法)。
この義務に違反した場合は「故障車両表示義務違反」となり、反則点数(1点)と反則金(6000円)が課されてしまう。まさに踏んだり蹴ったりとなってしまうのだ。なお、適切な設置の目安として故障車両の50m以上後方に設置することが推奨されている。
そもそも三角表示板に表示義務が課されているのは、高速道路上での停止車両というのは非常に危険な状態だからだ。路肩で停止しているクルマを走行しているクルマと錯覚して、その後ろについていこうとして突っ込んでしまうという事故が発生することは珍しくない。
停止しているということを明確に示すための三角表示板は自らの安全を守るためにも必要といえる。また、こうした事故が多いためトラブルで止まってしまった車両の中に残っているというのは大変危険だ。基本的には道路の外側(ガードレールの外側)に退避して救助を待つようにしたい。
発炎筒
三角表示板と同様に、高速道路などで車両がアクシデントで止まってしまった際、後続車にそれを知らせる手段のひとつが「発炎筒」。助手席の足もとあたりに装備されている赤い筒状の部品がそれだ。少量の火薬を用いたもので、先端を擦ることで発火させるという仕組み。発煙ではなく発炎となっているように、後方のクルマに炎の光で注意を促すためのものだ。その視認性は夜間で2km、昼間で600mと規定されている。
一般的に乗用車に搭載されている「発炎筒」が燃えている時間は約5分。意外に短いので理想としては発炎筒を焚いて注意を促しながら三角表示板を設置といった使い方になるだろう。トラブル発生時に適切に使えるよう、使い方などを確認しておきたい。その際にチェックしたいのは消費期限。発炎筒は雨や強風の中でも炎をあげるように設計されているが、消費期限を過ぎていると規定通りの炎をあげることができない。つまり役に立たないのだ。なお、消費期限は製造から4年となっていてるので車検毎に新品交換しておけば安心だ。
また、最近では使い捨てタイプではなく、LEDを用いた電池タイプの「非常信号灯」と呼ばれるアイテムも増えてきている。期限切れが気になるようであれば、電池タイプにスイッチしてしまうのも一つの手といえる。
非常電話
高速道路上でアクシデントに見舞われたとき、すべて自力で移動できる状態まで修繕できるのであれば問題ないかもしれないが、そうしたケースは皆無だろう。まずは緊急停止したことを誰かに伝えて救助を要請する必要がある。その有効な手段が道路わきに置かれている「非常電話」だ。大きく受話器のアイコンがかかれているので遠目にも非常電話があることはわかるはず。もし惰性で動いているようであれば非常電話のアイコンを目印に停止すると連絡が取りやすい。
非常電話はシンプルな構造で、基本的には受話器をあげることで係員とつながる仕組み。その段階で、どの非常電話からの連絡なのかは係員のほうには把握できるので高速道路のどのあたりでトラブルが起きているかを説明する必要はない。また、会話が不自由な人でも「故障・事故・救急・火災」と4つのボタンが付いているので、それを押すことで係員に状況を知らせることもできるよう工夫されている。非常電話で連絡を取ったら、救助が来るまでガードレールの外に退避して待っているのが基本となる。
もちろん、いまどきは携帯電話を持っているケースが多いだろうから非常電話を使わずに道路緊急ダイヤル『#9910』に電話するのもありなのだが、この道路緊急ダイヤルはdocomo、au、SoftBankといったMNO回線でしかつながらない。MVNO回線の携帯電話を使っている場合は非常電話を利用するしかないのだ。さらに携帯電話で連絡した場合は、クルマを停めた場所などを自分で説明しなくてはならない。その際に重要なのはキロメーターポストといって、高速道路の起点からの距離を示す標識となることも覚えておきたい。
なお、非常電話の設置場所は、本線上(1kmおき)・トンネル内(200mおき)・インターチェンジ・サービスエリア(SA)・パーキングエリア(PA)・バスストップ・非常駐車帯となっている。
エンジンブローなど整備不良
さて、ここまでアクシデントが起きた際の対応について触れてきたが、高速道路ではどのようなアクシデントがあり得るのだろうか。もっとも多いであろうパンクはこの後触れるとして、メカニカルトラブルとして動けなくなってしまうケースというのはエンジンやトランスミッションの故障に起因することが多い。
エンジンが止まってしまう原因の多くはガス欠だろう。高速道路上のガス欠というのは整備不良として道路交通法違反に問われるということを見聞きしたことがあるだろうが、高速道路を走行する前の整備項目として道路交通法では『燃料、冷却水若しくは原動機のオイルの量』を点検することが求められている。
ガス欠だけではなく、冷却水不足からのオーバーヒート、潤滑油不足からのエンジンブローやミッショントラブルというのは、運転手の責任も問われる可能性があるのだ。もちろん、走行前には問題ないと確認していても、走行中に壊れてしまうこともあるので、故障で止まってしまったからといって必ずしも道路交通法に違反しているとはいえない。
とはいえ、オイルが不足していて部品同士が焼き付いてしまうようなエンジンブローが起きてしまうと走行することもできなくなる。せっかくの予定がすべて台無し。いまどきの国産車であれば定期点検をしっかりと実施していればエンジンブローにつながるほどのトラブルは起きづらいとはいえ、せっかくの休みにロングドライブを楽しむというのであれば、事前にあらためてオイル交換などのメンテナンスや点検をしておくと安心だ。
パンク
最後に紹介したいのはタイヤのパンク。昔よりはパンクしづらくなっているが、それでも高速道路には様々なデブリ(破片)が落ちていることもあってタイヤが何かを踏みつけてパンクしてしまうことがある。その際に、どのように対処するのかを頭に入れておかないと、いきなりのパンクに焦ってパニックになってしまうと危険だ。
まず、なにかを踏んでのパンクではいきなり空気が全部抜けてしまうということは少ない。直進安定感がおかしくなってきたことなどから、早めにパンクに気付くことができれば徐々に速度を落として路肩に寄せて止まるというのがセオリーとなる。その際、非常駐車帯などより安全な場所に止めることができればベターだ。
パンクした状態で走っているとタイヤ自体が傷んでしまう。修理が効かない状態になってしまうこともあるし、最悪の場合はバーストといってタイヤが破裂してしまう。バーストするとタイヤ周辺のボディは傷んでしまうし、サスペンションや配管・配線類にも被害が及ぶため修理代もかかるようになるし、応急処置もできないレベルになってしまう。とにかくバーストは避けたい。
NEXCOでは、高速道路上でパンクしたときは路肩または非常駐車帯に停車し、後続車による二次被害を避けるために前述した三角表示板や発炎筒を使い、道路(ガードレール)外に避難して救援の到着を待つように指示している。
もしパーキングエリアなど安全な場所まで到達できたケースなら、パンクの対応としてテンパータイヤと呼ばれる緊急用タイヤに交換するか、パンク修理キットを使うことができる。いずれもクルマに搭載されているものを使うしかないが、それでも路肩での作業というのは危険が多い。三角表示板は使ったほうが良いだろう。よほど作業に自信がある人以外は、自動車保険に付帯しているロードサービスなどに修理を依頼するのが賢明といえる。