前3面ガラスに貼れる透明フィルムの正体
今年の夏も暑くなりそうだ。炎天下に駐車したクルマの中は、あっという間に60℃以上になる。さまざまな暑さ対策として、窓ごしに感じるジリジリした暑さをカットするのは有効。なかでも車内温度上昇の原因となるが、太陽光のなかに含まれる赤外線だ。つまり、車内の暑さに和らげるには、暑さを生む赤外線をウインドウフィルムの貼付で室内に入れないことである。
太陽光に含まれる紫外線(UV)と赤外線(IR)。紫外線は日焼けの原因となり、ダッシュボードやシート表皮を劣化させるもので、熱の元となるのが赤外線である。窓から侵入するこれらをカットするのに、もっとも有効なのがウインドウフィルム。一般的な自動車用ウインドフィルム施工店で扱う製品は、紫外線カット率は99%と日焼け防止としては有効だ。
ところが紫外線をカットできても波長の異なる赤外線までをカットできるわけではない。濃色のフィルムを貼って車内が暗くなると涼しくなったように感じるが、それは大きな勘違い。多少の赤外線はカットされているかもしれないが、実は太陽光による車内温度上昇対策にはなっていないのだ。
そこで登場するのが赤外線を遮断効果を持つ”IRウインドウフィルム”。全てのウインドウに貼るのが効果的だが、使用頻度の高い運転席と助手席の乗員のため(フロントウインドと左右前ドアのガラスへの施工)だけでも効果は高く、費用も抑えられる。しかし、クルマの前3面(三角窓含む)への施工については、車検上の制約がある。そのあたりについても含めIRウインドウフィルム装着に関して紹介しよう。
説明してくれたのは京都にあるプロショップ、ビーパックス。井上代表はウインドウフィルム施工業者の業界団体「日本自動車用フィルム施工協会(JCAA)」の理事も務めており、法令に関しても熟知している第一人者だ。
さて、暑さ対策のIRフィルム前3面貼りだが、自動車ディーラーにてウインドウフィルムを貼ること自体が車検に通らないと言われるケースがあるそうだ。しかし、平成15年の法改正で可視光線の透過率といった条件さえクリアすれば前側ガラス3面(三角窓含む)にも施工できるようになった。
可視光線の透過率の測定は、陸運局の機材以外では測れないというウワサもあるが、JCAAでは担当役所にヒアリングを行ない「それ以外の機材でもOKである」と言う回答をもらい文書化しているという。
また、いまのウインドウフィルムは日射量の調整とあわせて、事故などでガラスが損傷しても破片を飛散させない効果を持つタイプもある。ちなみに純正のプライバシーガラス(リヤまわりの使用する強化ガラス)は、割れたときの粒子が鋭利なのでフィルムを貼付するだけで、万一の事故で飛び散ったガラスで乗員をケガさせない効果も期待できるそうだ。
これらに関する規定は2013年に日本工業規格(JIS)へ盛りこまれた「お墨付き」である。これはフィルムの地位向上と品質を証明するのに重要なことだが、整備業界にも意外と知られていなかったりするのが現状。この機会に、今のウインドウフィルムは正しい選択さえすれば車検に通るのはもちろん、日射量の調整と乗員の保護も行なえる機能パーツであることを覚えておきたい。
では、前3面のガラスへのIRカットフィルムに関して。法律では道路運送車両法の29条3項にフロント3面のガラスは「可視光線の透過率が70%をクリアしていればよい」と記載されているので、施行時はここがポイントになる。ちなみに、純正ガラスの可視光線透過率は異なり、フロントウインドウとサイドウインドウでも違う例がほとんどだ。
なお、ビーパックスでは貼付するフィルムは大きく2つに分類。ベーシックなのが3面のうち、可視光線透過率が低いガラスにあわせ、貼付したときに可視光線透過率が70%以上になるタイプ。ほかのガラス面にも同タイプのフィルムを貼るというもの。
この選択でも暑さ対策には十分な効果があるのだが、さらに効果の高い仕様にしたいと思う人もいるだろう。そこで、ガラスごとの可視光線透過率の下限にあわせるフィルムを施工するというもの。ただし、数値を追い込むだけに正確な作業とノウハウが必要になる。
IRカットフィルム施工後に感じるのが「ジリジリした感覚が減った」もしくは「感じなくなった」ということ。そしてエアコンの効きも良好になる。例えて言うなら日向なのに「日陰のよう」な感覚だ。車内温度の上昇が抑えられれば、エアコンの稼働率も抑えられる。長い目で見れば省燃費性能も期待できるわけだ。
なお、IRカットフィルムには”UVカット”効果もあるので、乗員の日焼けや内装の退色、劣化予防にも効果があることを付け加えておきたい。
このようなIRカットフィルムの前3面貼りだが、前3面のガラスはフロントは言うに及ばず、両サイドもサイドミラーの確認時などでガラスを通して頻繁に外を見るものでもある。そのため、フィルム施工によって歪まないことや滲み(ニジミ)などが少ないフィルム選びも重要だと語ってくれた。
どちらにせよ、信頼できるショップでの施工が、正しい製品チョイスを実現できるのだ。