最高のクルマとして一目置かれる存在ヘ
メルセデス・ベンツは、創始者ゴットリーブ・ダイムラーとカール・ベンツによって造られた。2人の信念がメルセデス・ベンツのクルマ造りに脈々として受け継がれている。
ゴットリーブ・ダイムラーの信念として、あまりにも有名なのが「最善か無か」。”工場の門を出るものはいかなるものも、品質と安全においてすべて最高の規準まで進歩したものにする”という意味だ。一方、カール・ベンツは「発明への情熱は決して消えることは無い」と、技術者の強い意志を示し常に革新の信念を抱いていた。
さて、『”最善か無か” メルセデス・ベンツが最高品質を追求した傑作車』をテーマにした企画の第2弾。前回はEクラス(W124)をお届けしたが、今回は2代目のSクラス(W126)を取り上げてみたい。
空気抵抗に優れるボディで省エネルギー化
メルセデスのフラッグシップ・セダンに「Sクラス」の名を冠した最初のモデル”W116″の後継車として、この”W126″は1979年のフランクフルト・モーターショーで発表された。2年後の1981年に正規国内販売が開始され、当初は280SEと380SELの2モデルで82年に300SD、84年に最上級の500SELを追加。当時、世界一厳しいと言われた日本の排出ガス規制に対処すべく、ガソリン車は軒並みパワーダウンを余儀なくされスタートした。また、正規輸入車と同時に並行輸入車も多かったことも特徴。背景には1980年代に日本に吹き荒れたバブル景気があったことは言うまでもないだろう。
そんなW126は、先代”W116″の高度な走行性能や快適性、安全性を引き継ぐと同時に、オイルショック後の時代背景を受け、省エネルギーと環境保護を基に徹底した空力特性の向上と軽量化が図られた。風洞実験を基にボディは突起や段差をなくし、0.36という当時の量産車ではトップクラスのCd値を実現。しかもW126のデザインは、前回の”W124″で紹介した「ブルーノ・サッコ」によるものだった。
質実剛健に徹底した安全装備を採用
高張力鋼板や樹脂、アルミニウムなどを積極的に採用し、軽量化を目指した事も忘れてはならないポイント。当然ながら受動的及び能動的安全性はさらに徹底された。また、W126から採用された左右2本の三叉式メンバー(さんさ式)は、まさにオフセット衝突実験を繰り返して開発されたもの。ボディ前面の一部に集中する大きな衝撃を分散してボディ全体に逃し、客室の変形を最小限に止める構造である。
さらにこの技術を進化させ、エンジンルームと居住空間を隔てる頑強な湾曲構造の”カーブドバルクヘット”を採用。バルクヘッドが2重構造になっており、デリケートな電気部品やバッテリーを高熱から守り、衝突時の衝撃を2重の隔壁で受け止め、衝撃の分散効率を大幅に高めたほか、エンジンやトランスミッション部が客室側に侵入しない事を可能にした。
くわえて、SRSエアバッグやABSをはじめ、シート型デザインのパワーシート調整スイッチ、シートベルトアンカーの高さ機構など、現在の車に欠かすことのできない安全装備や、運転環境を高めるディテールの数々はW126から始まったと言って過言ではない。特に、SRSエアバッグは、13年の歳月をかけて1980年12月に世界で初めて”W126″に採用。シートベルトとの組み合わせによって乗員の保護効果を大きく向上させたSRSエアバッグは、開発責任者のグントラム・フーバー達によって今日に至っている。
使いやすさや操作ミス防止を最優先に設計
また、シート型デザインのユニークなパワーシート調整スイッチもこのW126からで、しかもこのタイプのスイッチは「世界初」。シート形状のスイッチを指先でスライドさせることで、座面の高さや傾斜角、背もたれの角度、ヘッドレストの高さを直感的に調整可能。スイッチそのものがドア内側に付いているから、調整のたびにシートの下をまさぐる必要もない。まるでロボットか何かを操作する感覚で、シートポジションを指先1つで意のままにコントロール。この世界初のシート型スイッチこそ、メルセデスがパワーシートを量産車へ本格導入するために用意した「切り札」であった。じつは、メルセデスの特許のひとつだったのだが、すぐ解除。当時、日本ではソアラが同タイプのシート型スイッチを採用し話題になっていた。
他にも、ポリウレタン樹脂で一体化された大型バンパーは、衝突時に衝撃吸収能力を発揮すると同時に高速走行時の安定性を向上。復元能力があり、修理コスト抑える事を可能とした。また、サッコ・プレート(サイドパネル)はボディサイドの飛び石や軽い接触事故から守り、必要に応じて交換可能な構造という、まさにメルセデス流の合理性を追求しているなど、W126は現在に通じる安全や環境のための技術を世界に先駆けて実用化した歴史的な高級セダンと言える。
最後に、1991年生産終了までの12年間に及ぶモデルライフは、歴代Sクラスの中で最長を誇ることも付け加えておこう。