ミニバンからの乗り換えでも狭さを感じない
今、日本でもっとも売れているクルマの上位5台中、3台がスーパーハイト系と呼ばれる軽自動車である。2019年7月の国内新車販売台数では、1位ホンダN-BOX、3位ダイハツ・タント、5位スズキ・スペーシアとなる。そのなかでもスーパーハイト系軽自動車は室内の広さ、特に頭上方向と後席ひざ回り空間で下克上的広さを備え、大型セダンを圧倒するほどだ。
例えば、室内高は新型タントが1370mm、N-BOXが1400mm、スペーシアが1410mm。ダイハツのウェイクに至っては1455mm!プリウスなど一般的な乗用車が1200mm前後だから、その高さは圧倒的。意外や意外、あの背高ミニバンのトヨタ・ヴォクシー&ノアでも1400mmなのである。
軽自動車は全長、全幅こそ、3395mm、1475mmのボディサイズの規格枠があるものの、全高については2000mm以下と実質やり放題。限られた室内空間、特に横幅の狭さからくる閉鎖感を解消するため、スーパーハイト系ではその名の通り、全高、室内高に余裕を持たせているというわけだ。
クルマをダウンサイジングするユーザーが増えている今、コンパクトカーはもちろん、ミニバンからの乗り換えでも、車内の狭さを感じないのが、スーパーハイト系軽自動車なのである。
とはいえ、身長172cmの筆者が前席/後席に座った時の頭上スペースは、ダイハツ・タント300/270mm、ホンダN-BOX290/265mm、スズキ・スペーシア320/280mm。シルクハットを被っていても問題なしの有り余る空間が、商用の軽バンでもないのに無駄、もっと低くてもいい……と感じる人もいるはずだ。
例えば、プリウスは前席の170mmに対して後席は空力性能のためにルーフ後端がなだらかに下がっているため、110mmでしかない。が、後席に座って頭上空間が著しく狭いと感じないのは(一般的な身長の人)、視線が前を向いていて(真上ばっかり見ている人はいないだろう)、ほぼ比較的室内高に余裕がある前席部分の天井を見ているからだ。
が、スーパーハイト系軽自動車のターゲットユーザーは、主に子育て世代。後席にチャイルドシートを取り付け、そこに子供を乗せる場面では、母親は車内に入り、チャイルドシートに子供を座らせる作業が必要だ。その際、車内の天井が高いと、チャイルドシートのベルト装着などの作業は間違いなく楽になる。無理な姿勢を強いられない。これは大きなメリット、実用性となる。
また、野球やサッカーをやっているような小学生がいるとしたら、迎えに行った帰り、室内高に余裕があれば、9歳の男子平均身長が約134cm、10歳の男子平均身長が約140cmだから、子供が車内で立ったまま、楽々、着替えをすることも可能になる。もちろん、室内にA型ベビーカーをたたまず乗せることも、室内高と後席の広さによってOKなのである。
さらに、日常、あるいはアウトドアで自転車を乗せるようにシーンでも(2名乗車、後席格納、ラゲッジスペース拡大が前提)、ラゲッジスペースを含む室内項の高さが効いてくる。N-BOXでは27インチの自転車(全長182cm、全幅56cm、全高103cm/例)が、新型タントのカタログでも、26インチの自転車を、タイヤを外さず、そのまま乗せられるという記述、写真が紹介されている。その際、積み降ろしのしやすさで、ラゲッジフロアの低さが効いてくるのはもちろんだ。
深夜、釣りに出発し、仮眠してから釣りを楽しむような釣り人、スーパーハイト系軽自動車に用意されている車中泊用アクセサリーを装着して、車中泊する人にとっても、室内高の余裕は、寝た姿勢から上半身を起こせるなど、メリット絶大、有効だ。
言い方を変えれば、子育て世代でもなく、自転車を乗せることも、仮眠することも、車中泊することもしないユーザーにとっては、スーパーハイト系軽自動車の室内高は大きな意味を持ちにくい。しかし、前記の子育て世代、アウトドア派にとっては、重心が高くなろうと、空気抵抗が大きくなろうと、その便利さに満足することができるわけだ。
ついでに言っておくと、ロングドライブでの眠気は、車内の酸素不足も一因。エアーボリュームがたっぷりあるスーパーハイト系軽自動車は、より眠くなりにくい、とも推測できたりする・・・(個人の感想です)。エアコンの風を拡散し、車内全体により快適な空調環境をつくり出してくれる、後席頭上のサーキュレーターや、空間有効利用のルーフコンソールといった装備も、天井が高いからゆえに装着可能になる。
一度、乗ったら、もう天井の低いクルマには乗り換えられない!ボックス型ミニバン同様、そんな気持ちにさせてくれるのも、まるで天井の高い家に引っ越したかのような爽快な居住感覚が得られる、スーパーハイト系軽自動車の魅力。N-BOX、タント、スペーシアが売れて当然なのである。