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モーターは低回転から最大トルクを発生!それでも電動車が暴走しない理由とは

モーターに流す電気量でモーター出力を制御

 東京・池袋でハイブリッドカーが起こした痛ましい事故などをきっかけに、電動車を危険視する記事もあるようだ。そこではモーターに電気が流れたときから最大トルクを発生するという特性を指摘している。確かに特性はその通りだが、流す電気の量を制御することでモーター出力もコントロールできることが正しく理解されていないのだ。

 内燃機関(エンジン)とモーターは、まったく別の動力である。それを活かすも殺すも、それぞれの長所と短所を十分に理解し、適切な制御で安全なクルマとすることが技術者の責務であると思う。

発進時には電気の流れを抑えた制御をしている

 まずモーターは、電気が流れた時点で最大トルクを発生させることのできる動力。したがって、無造作にバッテリーをつないでスイッチを入れれば、瞬時に最大の力を発生することになる。これは根本的な動力としての特徴を言ってるのであり、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)が、アクセルペダルを踏み込んだとたんに急発進するわけではない。

 オーディオの音量調整と同じで、電気をたくさん流せば大出力を出すが、発進時に電気の流れを少なくすれば穏やかに発進する。EVであろうとHVであろうと、発進時には電気の流れを抑えた制御をしている。その先は、クルマの特徴(ファミリーカーもしくはスポーツカーなど)次第で、アクセルペダルの踏み込み量に対しどれくらい電気を流すかで、加速の勢いが違ってくるわけだ。

 エンジンは、ガソリンにしてもディーゼルにしても、アクセルペダルが踏み込まれ燃料が供給されても、まず空気と混合し、圧縮し、燃焼し、その燃焼圧力によってピストンが押し下げられ、クランクシャフトが回転しはじめる。したがって、モーターと比べれば応答の遅い動力である。また、言い換えれば非力でもある。だから、変速機を使って大小ギア比の差を利用して力を増大させているのだ。

 そういうエンジンこそ、応答が遅いという弱点を補うために、アクセルペダルをわずかしか踏み込んでいなくても、鋭い発進を狙うなら、燃料供給量を多くしたり、変速機の1速ギアを低く設定したりすることで対処することができる。

 もう何年も前から、エンジンでもモーターでも、いずれのクルマも”ドライブ・バイ・ワイヤー”によって出力制御が行なわれている。つまり、アクセルペダルの踏み込み量に対し一定割合で加速させるのではなく、踏みはじめから、ある程度深く踏み込むまで、さらにフルスロットルとするまでの間に、加速の度合いを電子制御で変化させているのだ。

燃費改善のために電気始動を使う

 ドライブ・バイ・ワイヤーとは、アクセルペダルの踏み込み量を電気信号に転換し、その信号を受け取ったスロットル側が独自に燃料や電流調整をする仕組み。したがってアクセルペダルとスロットルは、直接つながってはいない。ここでいうワイヤーとは電線を意味し、電線を通した信号によって、アクセル操作をスロットルへ伝える仕組みを指す。

 なぜ、運転者が操作するアクセルペダルの動きを直接スロットルへ伝えず、電気信号を使ってコンピュータが制御するかというと、一つは燃費改善のため。どのようなアクセルペダルの操作をしても、ある程度の燃費性能を誰でも出せるよう、ペダル操作の様子や速度など運転状況からコンピュータが必要とされる燃料しか供給しないようにしている。

 また、アクセル・バイ・ワイヤーであることにより、ペダルの誤操作が行なわれた際に、運転者はアクセルペダルを床まで踏みつけていても、センサーが障害物を認識していると燃料供給を抑え、衝突を抑止することができるのも、ペダル操作が直接スロットルとつながっていないからだ。

 それでも急発進が気掛かりという人は、モード設定があり、ECOモードを選択すればEVの発進は穏やかになる。実際、ECOモードを常用する人もいる。

 以上のように、今日のクルマではアクセルペダルとスロットルは直接つながっておらず、状況に応じでどれくらい加速させるかがコンピュータで制御されている。したがって、急発進や暴走による事故が、エンジンかモーターかで優劣を語るのは見当違いだ。

 あらゆる技術には長所と短所があり、そこを十分理解したうえで最良のクルマを開発するのが技術者の仕事であり、そもそも、ガソリンのような危険な燃料を自分で給油し、車載し、安全に使えるようにしてきたのは、技術者たちによる開発努力の結晶によるものだ。同じことは、モーターについてもいえるのである。

 動力の方式や特徴の違いによる長所短所をもって優劣を指し示し、事故原因を議論することは不毛だ。

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